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子供のセカイ。245

[310] アンヌ 2011-06-30投稿
(こいつは……、やっぱり許せないんだろうな、舞子のことが)
美香自身はきっとそれほどには思っていない。舞子を説得し、救い出すことのみを念頭に起き、あとの感情はいつものように胸の奥底で噛み殺しているに違いない。
それでもそこには、冷たい怒りが漏れだし、滲んでいた。“真セカイ”を脅かされ、自分の周りの人間が危険にさらされているというのに、何も感じないような人間がどこにいるだろうか。
しかも、それをやろうとしてるのが自分の妹であれば、尚更だった。
「何してるの?行くわよ、耕太」
それでも美香は、まったく自分の感情に疎いままで、梯子伝いに屋根を降りていった。耕太もその後に続く。耕太は鉄の梯子をきつく掴み、込み上げる気持ちを抑えた。
――自分は二人の姉妹に対し、何もできない。そのことを、初めて強く痛感した。
結局この問題は、美香と舞子で、なんとかするしかないのだ。
そして二人は、自分たちばかりが歩くラディスパークの街を駆け抜け、白の乙女の後を追うようにコルニア城へ向かった。


* * *

地下にある暗い倉庫の片隅で、王子は息を潜めていた。
手を伸ばしては、一つ、また一つと、整然と並べられたボールを掴んで、持参の大きな麻袋の中へ詰め込んでいく。
(早く戻らなきゃね……)
慣れない作業に、ふう、と大きく息を吐き出しながら、王子は額の汗を拭った。見れば、麻袋の中にはすでにかなりの収穫高が顔を覗かせている。
――数日前に、この場所を教えてくれたのはラドラスだ。
彼は、「ジーナには内緒な」と笑って、地下にある保管庫にこっそり王子を連れてきてくれた。もちろん、治安部隊や監視者である少年にばれないようなやり方で、である。
(これだからわからなくなるんだ)
王子は心の中でぼやいた。お互いが敵だと知れてからも、ラドラスの親切さは微塵も揺らがなかった。それどころか、強い力となりうるボールの在りかをわざわざ教えるなど、親切すぎていっそ馬鹿にされているのではないかと思う。
(それとも、ボールを使わせて僕やジーナの存在を不安定にさせることが目的だったりして――)
ないない、と思って一人苦笑しながら袋の口を閉じていると、背後にふうっと人の気配が立ち昇った。

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