幻想怪奇談 短編〜以前に投稿したものです〜
▼ 2011/08/06 09:18
「私には何故だかわかりません」
ビデオテープから聞こえてきた細く無機質な女の声。
抑揚がなく、コンピュータで合成されたかのような声だ。
画面は時折、稲妻のような光が走るだけで真っ暗なまま。
俺は後悔していた。
取材で行った樹海に、コレは落ちていた。
年末にやる特番で「自殺する若者」を追うという有りがちな収録だ。
しかし実際の樹海は予想より遥かに薄気味悪く、枝にぶら下がった朽ちたロープを目の当たりにするとスタッフの表情も険しくなった。
自殺者のものと思われる遺留品をビニールに入れ警察に届けたところまでで番組は終わる。
勿論、仕込みの若者との対談や追跡などを盛り込む予定だ…だが、俺は遺留品の中から、コレをこっそり持ち出してしまった。
DVDに慣れた目でみると無骨に映るVHSのテープ…黒いその姿は強烈な存在感を放っている。
俺は無意識に鞄に突っ込んでいた。
警察に届ける役割を進んで引き受け、他のスタッフにテープを提出していないことを気付かせないようにさえした。
何故そこまで惹かれたのかわからない。
そんな気持ちを代弁するかのようにテープのなかの女は
「私には何故だかわかりません」
と繰り返す。
背筋に這い登る不安は、これ以上見ることを拒絶しているにも関わらず、俺は画面から目を離せない。
瞬くような暗い画面に、突如変化が起こった。
暗闇は掻き消され、画面いっぱいに現れたのは、悪夢のように醜い女だった。
異様に大きな口、剥き出された歯、小さな鼻、そしてなにより異様な両目…。顔から盛り上がるように迫り出した目。
死んだ生き物のように輝きを失い、左右違う方向を見ている。
女の口が動き、歪む。
「私には何故だかわかりません」
女のいびつに生えた歯は黄色く濁り、言葉を押し出す度に別の生物のように見える。
俺は、女を凝視し続けた
喉は張り付いたように渇いていた。
女のアップからカメラはスッと引いていく。
全体像を見て、我が眼を疑った。
女は少女の様に小さい。
がりがりに痩せ、背骨は捩れ曲がっている。が、それを差し引いても恐らく小学生くらいの背丈しかなさそうだ。
というのも、女の横に後ろ姿の女性が立っているからだ。
その女性の腰くらいまでしか身長がない。
小さい女はカメラを見つめながら唇を歪めた。
ボロボロの服には一昔前の少女キャラクターが描かれている。
幼女のような服装だが、俺には到底、この女が幼いとは思えない。
肌は老婆のようにくすみ、節だらけの右手は何かを掴んでいるようにぎこちなく固まっている。
そして左手には斧。
横にいる女は動かない。
異空間のような一室。
これはなんだ…?
誰かが作ったホラーフィルムだろうか?
小さい女はゆっくりとこちらに向かってくる。
斧を引きずる音が響く。
見せ付けるように斧をカメラの前で捻くりまわした。
そしてゆっくりと先程の場所まで戻り…おもむろに後ろを向いた女性の両足に斧を振り下ろした。
女性は跳ねるように前のめりに倒れた。
血飛沫が飛ぶ。
立っていた女性はカメラから消えたが、なおも斧を振り下ろし続ける女の体中が鮮血で染まる。
ぐしゃっと肉を断つ音のみが俺の部屋を満たす。
胃の奥から酸っぱい液体が競り上がる。
これは…なんだ?
現実なのか?
数十回休みなく叩きつけた斧を、女はようやく降ろした。
こちらを向き、真っ赤に染まった顔…目の中さえも血が入り全てが赤い…が、俺を見つめた。
その顔は画面いっぱいに広がり、真っ赤な目は間違いなく俺を捕らえていた。
俺はリモコンに手を伸ばし、電源を切った。
が、消えない。
女は呟く。
「わかりません…わかりません…わかりません…わか…」
俺は叫んでいた。
間違っていた、見てはいけなかった。
俺は罠に嵌まったのか?
ガクガクと震える足を引きずるように、立ち上がり玄関へと向かう。
ここにいてはいけないと本能が告げる。
汗で滑るノブを回し、飛び出した瞬間…俺はあの部屋にいた。
あの女がいる、あの部屋に。
「な…なんだよ…?なんで…ここは…」
小さな女は胸元に斧を抱え、俺を凝視している。
俺は今更きづいた。
女の言葉。
私には何故だかわかりません
それは俺に…ここにつれて来られた人間に言っていたんだ。
女は虚ろな声で呟く。
私には何故だか…
完
「私には何故だかわかりません」
ビデオテープから聞こえてきた細く無機質な女の声。
抑揚がなく、コンピュータで合成されたかのような声だ。
画面は時折、稲妻のような光が走るだけで真っ暗なまま。
俺は後悔していた。
取材で行った樹海に、コレは落ちていた。
年末にやる特番で「自殺する若者」を追うという有りがちな収録だ。
しかし実際の樹海は予想より遥かに薄気味悪く、枝にぶら下がった朽ちたロープを目の当たりにするとスタッフの表情も険しくなった。
自殺者のものと思われる遺留品をビニールに入れ警察に届けたところまでで番組は終わる。
勿論、仕込みの若者との対談や追跡などを盛り込む予定だ…だが、俺は遺留品の中から、コレをこっそり持ち出してしまった。
DVDに慣れた目でみると無骨に映るVHSのテープ…黒いその姿は強烈な存在感を放っている。
俺は無意識に鞄に突っ込んでいた。
警察に届ける役割を進んで引き受け、他のスタッフにテープを提出していないことを気付かせないようにさえした。
何故そこまで惹かれたのかわからない。
そんな気持ちを代弁するかのようにテープのなかの女は
「私には何故だかわかりません」
と繰り返す。
背筋に這い登る不安は、これ以上見ることを拒絶しているにも関わらず、俺は画面から目を離せない。
瞬くような暗い画面に、突如変化が起こった。
暗闇は掻き消され、画面いっぱいに現れたのは、悪夢のように醜い女だった。
異様に大きな口、剥き出された歯、小さな鼻、そしてなにより異様な両目…。顔から盛り上がるように迫り出した目。
死んだ生き物のように輝きを失い、左右違う方向を見ている。
女の口が動き、歪む。
「私には何故だかわかりません」
女のいびつに生えた歯は黄色く濁り、言葉を押し出す度に別の生物のように見える。
俺は、女を凝視し続けた
喉は張り付いたように渇いていた。
女のアップからカメラはスッと引いていく。
全体像を見て、我が眼を疑った。
女は少女の様に小さい。
がりがりに痩せ、背骨は捩れ曲がっている。が、それを差し引いても恐らく小学生くらいの背丈しかなさそうだ。
というのも、女の横に後ろ姿の女性が立っているからだ。
その女性の腰くらいまでしか身長がない。
小さい女はカメラを見つめながら唇を歪めた。
ボロボロの服には一昔前の少女キャラクターが描かれている。
幼女のような服装だが、俺には到底、この女が幼いとは思えない。
肌は老婆のようにくすみ、節だらけの右手は何かを掴んでいるようにぎこちなく固まっている。
そして左手には斧。
横にいる女は動かない。
異空間のような一室。
これはなんだ…?
誰かが作ったホラーフィルムだろうか?
小さい女はゆっくりとこちらに向かってくる。
斧を引きずる音が響く。
見せ付けるように斧をカメラの前で捻くりまわした。
そしてゆっくりと先程の場所まで戻り…おもむろに後ろを向いた女性の両足に斧を振り下ろした。
女性は跳ねるように前のめりに倒れた。
血飛沫が飛ぶ。
立っていた女性はカメラから消えたが、なおも斧を振り下ろし続ける女の体中が鮮血で染まる。
ぐしゃっと肉を断つ音のみが俺の部屋を満たす。
胃の奥から酸っぱい液体が競り上がる。
これは…なんだ?
現実なのか?
数十回休みなく叩きつけた斧を、女はようやく降ろした。
こちらを向き、真っ赤に染まった顔…目の中さえも血が入り全てが赤い…が、俺を見つめた。
その顔は画面いっぱいに広がり、真っ赤な目は間違いなく俺を捕らえていた。
俺はリモコンに手を伸ばし、電源を切った。
が、消えない。
女は呟く。
「わかりません…わかりません…わかりません…わか…」
俺は叫んでいた。
間違っていた、見てはいけなかった。
俺は罠に嵌まったのか?
ガクガクと震える足を引きずるように、立ち上がり玄関へと向かう。
ここにいてはいけないと本能が告げる。
汗で滑るノブを回し、飛び出した瞬間…俺はあの部屋にいた。
あの女がいる、あの部屋に。
「な…なんだよ…?なんで…ここは…」
小さな女は胸元に斧を抱え、俺を凝視している。
俺は今更きづいた。
女の言葉。
私には何故だかわかりません
それは俺に…ここにつれて来られた人間に言っていたんだ。
女は虚ろな声で呟く。
私には何故だか…
完
感想
- 41522:ホラー小説、すごく巧みですね。私もホラーが書きたくて、いくつかアイデアはあるのですが、筋運びが難しくて。多分ホラーって一番難しいジャンルたと思います。これからもお手本にさせてください:沙緒[2011-09-03]
- 41528:えっ///あ、ありがとうございます〜(>_<)とっても嬉しいです♪[2011-09-06]
- 41570:作者は精神的に病んでいるようだ。[2011-09-24]
- 41578:精神的に病んだりしてないですよ〜??よくわかんないですけど、、、読んで下さってありがとうございました[2011-09-26]
- 41615:70、お前は最低だな。人に病気とかバカか?中二だな。作者さん、こいつがあまりにもうざいのでコメ連しました。ごめん。作者さんが許せても不快すぎた。[2011-10-23]
- 41932:いろいろ読んだ中で衝撃的でした!文字から情景が思い浮かんでどんどんひきつけられる感じ☆よかったです![2012-01-02]