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子供のセカイ。262

[311] アンヌ 2011-09-30投稿
「当てる気があるのかしら、お嬢さん?」
乙女たちはクスクスと笑い、美香と耕太に向かって一斉に様々な色の粉を振り掛ける。恐らく睡眠薬や痺れ薬などの類だろう。
美香は間一髪、剣を横に振ることで粉の全てを凍らせ、ダイヤモンドダストのように結晶がきらきらと宙を舞う。それを隠れみのにし、髪の長い一人の乙女が、息継ぎする間もなく美香の眼前に迫った。
「っ!?」
ガッと足が何かに躓き、乙女の身体のバランスが大きく崩れる。美香の前にはあらかじめ敷いておいた罠――何層にも引いて石のように密度を増した氷の塊があった。乙女は目を見開き、美香はニッと笑う。
「くっ…!」
続けて美香が放った氷の息吹の餌食となり、乙女はたちまちの内に凍りついた。
残された二人の乙女は、それでも顔色一つ変えず、淡々と美香と耕太に攻撃を加え続ける。美香はドアと奮闘する耕太の背中を守りながら、何度も無駄に剣を振り、その度に氷が壁に床に縦横無尽に走った。美香は徐々に疲れたように剣の動きを遅くし、乙女たちの猛追がかかる。
(もう少し……もう少し……今だ!)
「耕太、床に火を!」
二人の乙女が真正面から美香に向かってきた一瞬を捉え、美香は鋭い声で叫んだ。耕太はぴくりと耳を動かすと、振り向きざま、躊躇いなく剣から炎をほとばしらせる。それは足元の氷を一瞬で蒸発させ、濃い霧がたちまちの内に視界を覆い尽くした。
「!」
「しまった…!」
乙女たちは踏み出しかけた足をもつらせ、いったん身を引こうとするが、時すでに遅し。
白い闇を裂いて現れた美香が容赦なく剣を振るい、二人は同時に氷の彫像と化した。
「終わったわ」
水蒸気に湿った髪をかきあげ、美香は身震いしながら耕太に向き直った。氷を出せるのはいいが、すっかり身体が冷えてしまったようだ。
ゆっくりと晴れていく霧の向こうに、耕太が肩を落とし、茫然と突っ立っている姿が見えた。ドアは破ったようだが、部屋に入る様子もなく、中を覗き込んだままぴくりとも動かずにいる。
「――どうしたの、耕太?」
ただならぬ様子に嫌な予感を覚えつつ、美香は耕太の見ているものを見ようと横に並んだ。そして、声を失った。
「やあ、君もいたんだね。ずいぶん遅かったじゃないか」
朗らかな口調、余裕を湛えた笑み。
部屋の中にいたのは、紛れも無くミルバだった。

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