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子供のセカイ。266

[445] アンヌ 2011-10-15投稿
「でも、舞子のことは殺さないと、約束してくれたわよね?」
ひっそりと掠れた声で核心に迫る美香の言葉に、耕太はごくりと唾を呑んだ。
美香は、悲しみとも憐れみともつかない、不思議な表情でミルバを見つめていた。
「『約束』はしていない。『努力する』と言っただけだ」
しかしミルバは、あっさりと二人の望みを絶った。場合によっては、本当に舞子を殺すという、明らかな意志表示。
美香は急に踵を返すと、スタスタと入口に向かって歩き出した。いびつに空いた扉の前で立ち止まる。振り返ったその目は、ここを通さないとばかりにきつい光を放っていた。
ミルバは呆れたように表情を緩め、腕を組む。大人びた美香を信用していたのに裏切られた、とでも言いたげな態度だった。
部屋の中は古い紙と舞い立つ埃の匂いで充満していた。本の搭に隙間なく固められた三人は、無言で見つめ合ったまま、神経を尖らせる。正確には美香と耕太が。ミルバは動かないまま何事かを考えているようだったが、やがて一つ息を吐くと、ひょいと再び机に腰掛け、少年少女と向き直った。
「わかった。時間がないから急ごうと思っていたのだけど、まあいいだろう。また時間を戻せばいい」
ミルバは自嘲するように笑って言い、目を細めた。
「165回と、37回。……何の回数かわかるかな?」
美香と耕太は顔を見合わせた。必死に頭を働かせるが、不意に腰を落ち着けてしまったミルバの言わんとしていることが、さっぱり読めない。
ミルバは机の上に置かれた本の背表紙をつうーとなぞりながら、大して面白くもなさそうに言った。
「165回は、治安部隊や城兵部隊――つまり私の部下が最初に舞子勢と闘って破れ、ほぼ全滅した回数だ」
「!!」
「そして37回は、私自身が処刑されかけた回数。……いや、先程のものを含めれば、38回になるか」
想像さえしていなかった内容に、美香と耕太は絶句した。あまりの衝撃に声すら出せず、信じられないと目を見開いたまま、ただ茫然となってミルバを見返す。
ミルバは皮肉に唇を歪めて微笑んだ。子供の顔をしているだけに、その表情はぞっとするほどシュールだった。
「それだけ時間を戻しても、舞子には勝てなかった。これで君たちもわかっただろう。こちらがどんな方法を取っても、相手はそれに答えるつもりが毛頭ない。殺されるのが関の山だ」

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