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子供のセカイ。268

[389] アンヌ 2011-10-18投稿
ミルバは目を閉じると、膝の上で強く拳を握った。
「――ハントには酷なことをしてしまった。最後の最後に記憶を残さないよう時間を戻したから、私が処刑されたことに最初は疑いを持たなかったはずだ。でも、今は違う。ハントは揺らいでいる。私が再び協力を要請しに行ったことで、自分が殺された記憶が蘇ったはずだから」
だから、治安部隊が味方につくかどうかわからないと言っていたのだ。美香はすぐに歯切れの悪かったミルバの態度を思い出した。
ミルバは頭を切り替えようとするように軽く首を振ると、美香と耕太を交互に見据えた。
「とにかく、これでわかっただろう。舞子の想像物を相手に、容赦はいらない。いや、できないんだ。自分が殺されたくなかったらな」
「でも舞子本人は、」
「危険人物に他ならない。彼女こそがすべての元凶だ。強大な力で、無意識に殺されないとも限らないしね。それでもどうしても舞子を助けたいなら、私から舞子を守ればいい」
話はこれで終わりだ、とでもいうように言い放つと、ミルバは再び時間を戻した。夜羽部隊を凍らせ終えた場面で、美香と耕太はハッと気づいて顔を上げる。
「行こう。覇王が戻ってこない内に、舞子にたどり着かなければ。私の分身の死を、無駄にしたくはないだろう?」
ミルバは二人の間を通って、悠々と部屋から出ていった。四肢についたままの、中途半端な長さで切れた鎖をジャラジャラと引きずりながら。美香はその背中を複雑な表情で見つめた。ふと視線に気づいて隣を見ると、唇を引き結んだ耕太と目が合った。
「あいつの言う通りだ。俺達は俺達で、舞子を助けようぜ」
「……」
そういう問題じゃないのよ。美香は心の声で呟いた。何か、何かが変なのだ。自分が何をしたらいいのかわからない。怒りに身が張り裂けそうなのに、悲しい気持ちも同時に抱えていて、涙が出そうになっている。
「生きるか死ぬかの問題と、姉妹喧嘩は別の話だろ?」
耕太がおどけたように言った台詞に、美香はハッと胸を突かれた。
耕太はミルバの後を追いながら、こちらを振り向いてにっと笑った。
「ええ、そうね……その通りだわ」
美香は何度も頷いた。自分は何を血迷っていたのだろうと、叱咤するように頬を叩く。
舞子自身に苛立ちながらも、その舞子を助けなければならないという状況に、少し美香は混乱していたのだ。

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