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略奪 8

[312] アフリカ 2012-02-07投稿
8)
チンピラ。
正に、その言葉が相応しい。
一瞬でも愛梨が愛した男ならもっと凜としていて欲しかった。
私は愛梨に聞き出した場所を頼りに奥村を捜し出していた。
大音量の闇の中。
頼んだカクテルの味など分かる筈もない。
背向かいのボックスで下品な声で笑い両脇に派手な女を侍らした奥村に愛梨を束縛する権利など有るのかと自問自答する。
何度考えても答えはNOにしか成らない。
愛梨が味わっている屈辱を考えると許せる筈など無い。
私はポケットの中にある違和感を生み出す金属の塊を指先で確かめた。
以前、淳が部屋に忘れていった折り畳み式のナイフ。
切れ味など分からないが何処に切っ先を突き刺せば良いのか位は知っている。
これ以上、苦しむ愛梨を放っては置けない。
勿論、たった数回逢っただけの恋人や身内でも無い人の為に、私がやろうとしている事が誰から見ても愚かな行為に違いない事は良く分かっていた。
店を出て数メートルの場所で奥村が崩れ落ちる。
低い呻き声をあげてアスファルトに顔面から崩れ落ちる。
飛び散る鮮血が派手な色のシャツを更に濃く染める。
私は、声を失い苦しみ悶える奥村を見詰めた。
そして、その奥に呆然と立ち尽くす愛梨を見詰める。
返り血で真っ赤に染まったシャツと真っ赤に染めた髪が美しくて目眩がした。
『愛梨さん…』
愛梨が私を認め微笑んで手を振る。
その手は真っ赤で掌のナイフからは未だ奥村の血液が滴り落ちている。
『逃げて』
私は叫んだ。
『逃げて』
声の限り叫んだ。
声が届いたのか愛梨の唇が僅かに動いて何かを呟いているが既に野次馬が集まり初めていて聞き取れない。
『逃げて』
私は愛梨に駆け寄り肩を揺する。
『自由…に…なれたかな?』
聞き取れなかった囁きが意味を成す。
愛梨を抱き締めた。
息も出来ぬ程
声も赦せぬ程
きつく抱き締めた。
『一緒に逃げよう』
私は愛梨の手を取り愛梨の顔を覗き込んだ。
『逃げよう』
一歩踏み出すと、繁華街に出来た人だかりが綺麗に二つに割れて私と愛梨は走り出した。

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