勇者の説明書
お母さん私。『ユサ』16歳は今日から立派な勇者になる為に旅立ちます。
私達の大陸には【獣国】と【人国】があって、交遊関係が最悪です。
その二つの内の一つ、【人国】に私は住んでいます。
私の国では勇者はみんなからの憧れ的な職で、私は勇者見習いを卒業する為、最終試験を受けます。
その最終試験の内容が《獣国に行き、人間とバレる事なく腰に下げた剣をある人に届ける》だそうな。
えっ?簡単そう?そんな楽々とできたらみんな勇者になってますよ……。
勇者はそんなに甘くありません。
何故なら…。
「ユサ姉ちゃん!」
私が纏っている紅色のフード付きのコートを、誰かが引っ張った。とても弱い力で。
「……マー君。お見送りに来て下さったのですか」
そこにはいとこのマー君が居ました。
「行くなよ……」
「…ごめんなさい。しかし、これは私にとってもお城に居る母さんにとっても大事な事なのです」
すると、町一番のやんちゃ者、マー君(12歳)の目から大粒の涙が流れました。
「だってぇ、もし獣国の国民に見つかって捕まりでもしたら、もう帰ってこれないかも知れないんだろ!?死んじゃったらどうするんだよ!!」
そうなのです。先程も申しましたが、人国と獣国の親交は最悪。
見つかったら、最後。これが勇者になるために与えられた命懸けの試練なのです。
「マー君。獣と言っても、耳と尻尾が有るか無いかの話。このマントがあればノープロブレムですよ」
「でも……」
「でも?」
「獣国と人国って時間の流れが違うんでしょ?」
「ええ」
「僕、次帰ってきた時ユサ姉がおばさんになってるなんてヤダ」
「おばっ?!」
なんて事を言うのですか、この子は。
「そこまでにしときな、マー坊」
「じぃちゃん…」
「マー君のお祖父さん」
お祖父さんは私の格好をじっと見つめています。
「どこか変だったでしょうか?」
「いいや。ユサちゃんの髪はキレイな金だねぇ」
「母さん譲りの大切な髪ですから」
「そおか」とニカッとお祖父さんは笑いました。
「では、行ってきます」
「行ってきな。ほらマー坊も」
マー君は唇を噛みしめ、泣くのを押さえて顔を上げました。
「…ユサ姉!……」
「はい」
「ユサ姉がもし帰ってきた時、俺が立派な剣士になってたら………僕…いや俺と、けっ一緒に暮らして下さい!」
「―――はい。喜んで」
その後、周りからヒューヒュー「おめでとう」と歓声が鳴っていたのはなぜでしょうか?
ま、いいか。
私、ユサは紅色のマントを深くまで被り、腰にある剣を確認すると歩き出した。
どこまで?
獣道まで。
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