携帯小説!(スマートフォン版)

トップページ >> 恋愛 >> 低空飛行

低空飛行

[561] 大家ヒロト 2012-09-06投稿

放課後の教室の隅。

私が本を読んでいると、ふと頭に紙飛行機らしき物がこつんとあたった。

すると、「氷野、ごめん。怪我無い?」とクラスメイトの彼は心配そうに近づいてきた。

「別に……」と返すと、彼は少し戸惑って。



「そのさ…俺、正直に言うと本当に、氷野の事心配してるんだ…………だから氷野も、もっと自分を大切に…正直にして欲しい…と思ってるから……痛かったら痛いって素直に言えよ?」


私はすぐにはその言葉の意味を理解できなかった。

しばらくして、私は彼に

「……大切にして欲しいのは身体の方?それとも心の方?」

と尋ねた。



すると、彼は焦ったように

「も、もちろん。身体もそうだけど………やっぱり本命は心の方…かな」

「どうして心に【正直】なの?」

彼は、決意を決めたようにいった。



「氷野っていつも本読んでるでしょ?」

「うん。そうだね」
私は特に否定せず、淡々と返事をする。

「じゃあ何で、読んでる本全部点字で書かれてるの?」



「………点字を…勉強してるからだよ」




「ソレ嘘だよね?」
「嘘じゃない」

私は少し声のトーンを低くした。
普通の人なら怖がるくらいの……でも、何事も無かったように彼は喋り続けた。


「じゃあ、俺の名前と顔わかる?」

………

言葉が出なかった。


分からなかった。


自然と手が震えているのが分かった。

だって………


「…………分からない」


私は、『盲目』なのだから。
……もちろん、クラスメイトにも言ったことはない……はずなのに。


「どうして……………分かったの?」

どんな顔をしてるか分からない彼に問う。



「最初は気づきもしなかった。………疑問を抱いたのは最高気温を観測した晴天の日だった」

「………晴天」

そんな日もあったかもしれない。彼は優しい声で語りだした。
「俺さ、学校の帰りお前が傘を持ったまま帰ってるの見たんだ。最初は日傘の変わりに持ってきた物だと思い込んでた。けどさ………お前、いつまでたっても傘をさそうとしないんだ。あんな暑い日だったのに……。だから気になって近づいてみたらさ……傘を白状の様にして道を確認する氷野が居て、もしかしたらって………」


「それだけで?」


「いや。本当に確信したのがさっきの紙飛行機……アレ実はすごく至近距離から投げたんだ。目が見える人ならよけれる位の速さで」


そして、私は彼の狙い通り投げる前に気づくことも避ける事なく、あたった。

成る程。



「言いたかったら、みんなに言いなよ」

「誰も、言いふらすなんて言ってない」

「じゃあ何がしたいわけ?その名推理を自慢したいの?名探偵様!?」




ガタンッ!!

急に私が座っている椅子と自分がひっくり返った。
彼の声が上から聞こえた。きっと目が見えてたらすごい格好になってるだろう。


「―――だから!!!」


彼は声を張り上げた。

「そうやって強がって意地はるの………やめろ」

「命令しないで……」



「いい加減素直になれ!!お前、実はみんなに気づいて欲しかったんだろ?だから、点字の本とかさっきの傘とか色々意識して行動してたんだろう?!」

「違うッ!!」私は力一杯あがいた。


「違わない………お前今泣いてる…」

私はすぐ頬に手を当てる。

「ハハ…バカ?私が涙なんて……流しっこないよ………………………っ流しっこないない…流すわけないよぉっ………」

うわあぁあぁああん

私はその後、顔も知らない男子を前に声がかすれるまで泣いた。






帰りに彼は唐突にこんな事を言いだした。

「氷野、紙飛行機作ってみないか?」

「紙飛行機?別にいいけど私作った事も飛ばした事も無い…」

「なあ、氷野。まずはヘタでも、低く飛んでも良いんだ。大切なのは………」





「自分に正直な心、でしょ?」


「ああ」


その時、顔の見えるはずもない彼の笑顔が見えた。

感想

  • 42294:いい話ですね![2013-03-31]

「大家ヒロト」の携帯小説

恋愛の新着携帯小説

利用規約 - サイトマップ - 運営団体
© TagajoTown 管理人のメールアドレス