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気高い変質者

[558] TAO 2012-11-14投稿
その男は精神啓発本を手に取り、真剣な眼差しで読み入っているようだった。

横目で表紙のタイトルを覗くと「閉ざされた時代の開かれた心」…とある。

私は、その男の、人目を引く異様な風体に混乱していた。

それでも、このコンビニという、日常を特化しようも無い場所で、開かれた心…を読み漁る男に私が興味を惹かれたのは、彼が、大凡、この場に居合わせた客の誰よりも、冷静沈着に見えたからだ。




その頭に被せられたティーバックを二度見してゆく者に対して、男はまるで無頓着だったし、仮にもし彼に、奇を衒う目的があったとすれば、私にはその悪趣味を見抜く洞察が用意されていた筈だ。

しかし彼の表情は元より、その挙措に於いても全く抜かりが無いばかりか、何と男は、並列に並ぶ二つのレジを振り向き、徐(おもむろ)に手を挙げ、店員を呼び付けたのだ。

招かれざる客の発する突然の声に、いよいよ、女子高生達の溜めた黄色い笑い声は、長方形の店内に奥まったスイーツコーナを経由し、雑貨の陳列棚へと一気に雪崩れ込む。

それでも、嬉々と響き渡るその嘲笑に、男はまるで怯まない。

その異変は、ここで初めて事の真相を知る者の関心を徐々に取り込み始め、最早店内の目という目は、男が頭に被せた下着の鮮やかな赤に占拠されてしまったらしい。

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