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流狼-時の彷徨い人-No.77

[609] 水無月密 2014-05-19投稿
 揺らめきながらも立ち上がった半次郎。

 その身体が既に限界をむかえているのはあきらかであったが、彼のまとうオーヴは白金の光を放ち始めていた。

 オーヴの発光、それはオーヴの量、質ともに常人の域を超越したことを意味していた。


 更にオーヴの輝きをましていく半次郎。

 彼の成長は異常であり、その危うさを危惧したノアは、剣先で段蔵を牽制しつつ半次郎を制止した。

「よせっ、
 これ以上闘い続ければ、命の保証はないぞ」

「……十年前、後藤半次郎殿が武田の追っ手を相手にみせた神業の全ては、おそらくオーバードライブを根幹としていたのでしょう。
 その献身により生き長らえ、半次郎の名まで受け継いだ私が、ほんの一瞬動きを真似ただけで根をあげていて、何の面目がたちましょう」


 私利私欲が席巻する戦国の世にあって、志を貫き通した後藤半次郎。

 その生きざまは幼き日の半次郎に恒星のような輝きを残していた。

 それは彼を成長させる大きな原動力となっていたが、反面としてその死にたいする負い目が半次郎の思考から柔軟性をうばうという弊害をもたらしてもいた。


 真っ直ぐな瞳の奥に後藤半次郎の残光を感じ取ったノアは、この聞き分けの悪い弟子に嘆息した。

「もはや何を言っても引く気はないようだな。
 …ならば勝手にしろ。
 忠告をした以上、どの様な結末になろうともワタシは知らん」

 段蔵に向けた刀をおろすと、ノアは傍らの樹に寄りかかり、成り行きを静観し始めた。


 剣を手にしたままのノアを一瞥する段蔵だったが、その興味はすぐに半次郎へとむけられた。

「この短時間でオーヴを発光させるとは大した才能だな。
 だが、その程度じゃ相手にならねぇな。
 更に言えば、お前のオーヴには殺気が微塵も感じられねぇ。
 そんな緩い攻撃じゃ、俺どころか格下の相手にすらしねぇぞ」


 戦国の世では戦闘が帰趨する所は生と死であり、なればこそ段蔵は闘いの中に高揚を見出だしていた。

 その時代にあって半次郎の闘い方は異質であり、段蔵には理解不能であった。


「本来闘いとは手段であって、目的如何では必ずしも相手を殺す必要は無いはずです」

「妙な事をいう。
 今のお前に、俺と刺し違える以外に何の目的がある?」

 立っているのがやっとの状態である以上、半次郎の狙いはそこにあると段蔵はみていた。


 答える半次郎は慎重に言葉を選んでいた。

「……加藤殿、私と取り引きしませんか?
 貴方の欲しているものが強い相手だというのなら、私がその役を担いましょう。
 今の私では足下にも及びませんが、いつの日か必ず貴方をこえてみせる。
 それが可能性であるか否かを、これからの闘いぶりで判断していただきたい」

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