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ビートルズ

[504] ごはんライス 2014-05-20投稿
 オレは外務省に勤務している。といっても外交官じゃない。清掃のアルバイトである。
「たけしくん!きちんと磨きなさい!」
「ふぁ〜い」
 ベテラン清掃員のよしえさんに怒られる毎日。

 今日もくたくたになって、居酒屋「はっちゃん」へ行く。ビールと枝豆。最高である。癒える。よしえさんの悪口を大将に聞いてもらったり。
 そして、ぼんやり、小説のことを考える。アルバイトを脱出してプロ作家になるのが、オレの夢だ。仕事でミスをしてしまうのは、だいたい夜遅くまで小説を書いてた時だ。
「たけちゃん。ビッグになれよ。そして、ツケを払えよ」
「任せとけ大将。ビッグになったら大将に小遣いやるぜ」
「ふふっ。えらそうに。まあでも楽しみにしてるよ」
「任せとけ。ひっくひっく。よしえのバカヤロー」
 居酒屋を出て、ビートルズを歌いながら歩く。野良犬がハモる。ちょっとしたジョン&ポールだ。オレは酔っぱらってたので歌詞を間違えた。野良犬がゲラゲラ笑った。ムカついて蹴飛ばした。「わぃん!」

 ある日、オレは失恋しちまった。長年付き合ってた子が浮気をして別の男と入籍。男は正社員である。オレはアルバイトだ。勝ち目がない。情けないことである。とほほほほほほ。
「ねえ華子。離婚しなよ。離婚してオレと結婚しろよ」
「バカ言わないで。ラブラブなんだから邪魔しないでよ。ストーキングなんかしたら警察呼ぶよ」
「チキショー」
 ますますプロ作家になりたくなってきた。小説は当たるとバカでかい。億万長者になれる。プール付きの豪邸を建て、フェラーリを乗り回すことができる。松阪牛のサーロインステーキだって朝食に出る。

「筒山師匠。売れる小説とはどんな小説ですか」
「わかりやすくて面白い小説だよ。
わかりやすくてもつまらないと売れないし、
面白くても難解だと、マニア受けするだけで売れないよ」
「では、そういう小説を書くにはどうすればいいんですか」
「たけちゃんが頭よかったら戦略練るのもいいけど、あんたアホでしょ。だから、ひたすら書いて、ひたすら読むことが大事だよ。
量をこなすと上達するよ」
「わかりました師匠!お金貸してください!」
「いやだ!あんた返さないもの!」
 だから、オレはひたすら書いて書いて書きまくり、読んで読んで読みまくる。
 そうして日が昇り、日が沈む。
 野良犬がビートルズを歌っている。オレはハモった。



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