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流狼-時の彷徨い人-No.80

[659] 水無月密 2014-06-29投稿
「……一つも当たらねぇのかよ。
 まったく、可愛いげのねぇ野郎だ」

 言葉とは裏腹に、半次郎への評価をたかめていく段蔵。


 そして彼は考える。

 今、この場で手加減なしの勝負を半次郎にしかけても、十分楽しめるのではないかと。



 段蔵のオーヴが僅な殺気をおびた刹那、その背後に忍び寄ったノアの剣が振りおろされた。


 煌めきながら弧を描く剣に、是非もなく一刀両断に切り裂かれる段蔵。

 だがその姿は、すぐさま霧散して無とかした。



「詰めが甘いな。
 剣を手にしたままの相手を、俺が無警戒にするとでも思ったのか」

 いち速く死地を離脱した段蔵が、自分の幻影を切り裂くノアを凝視しつつ呟いた。


 だが、彼はすぐに気づく。


 剣がふれればそれがブロッケンであるとわかるはずのノアが、剣を振り終えたまま無反応であることに。



「詰めが甘いのはキサマだ、ブロッケンを作り出せるのが自分だけだとでも思ったのか?」



 段蔵から、余裕の笑みが消えた。


 すぐさま防御体勢をとる段蔵。

 だが、その体勢がととのうのを待つことなく、ノアの剣が段蔵をとらえようとしていた。


『かわしきれんか。
 しょうがねぇ、左手はくれてやるよ』

 腕一つ捨てることで窮地をしのごうとする段蔵を、半次郎の横蹴りが弾き飛ばした。


 空を切るノアの剣。

 そのノアを包み込むように半次郎が抱きかぶさった刹那、複数の銃声が富士の樹海に谺した。




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