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流狼-時の彷徨い人-No.83

[769] 水無月密 2014-09-16投稿

 あらぶる感情にまかせて歩をすすめるノア。

 その身体を覆う高密度のオーヴは局所で火花をとばし、際限なしに増大していた。

 その様を目の当たりする半次郎は、自分が属するサイレントオーヴが明鏡止水の精神状態で発動するのにたいし、ノアが属するライジングオーヴが対極にある事を理解した。


「……ちゃんと、…感情の起伏を持ち合わせているじゃないですか」

 血にまみれた口許をほころばせる半次郎。

 その息は絶え絶えで、右胸をつらぬいた銃弾が大量の吐血をともない、半次郎を死の縁へと追いやっていた。


「何故俺まで助けた?
 余計な事をしなければ、そんな不様な結果にはならなかったはずだ」

 自分を見下ろす段蔵に気づいた半次郎は、その目を静かにとじた。


「…貴方にも死んでほしくなかった。
 ……ただ、…それだけの事です。」

「それだけの理由で、お前は銃弾の盾になったというのか?」


 望めば時代の奔流を歩めるだけの才能をもちながら、躊躇なく他人の為に命を投げ出した半次郎。

 その生き方は、本能のまま戦い続ける段蔵には理解できなかった。


 問われた半次郎自身、自分の不器用な生き方が可笑しくおもえた。

 だが、後悔はない。

 結果としてノアと段蔵は無事であり、なにより後藤半次郎が忌の際にみせた笑顔の意味が、ようやく理解できたのだから。


 あの時、後藤半次郎がみせた清廉潔白な笑顔を、自分自身が今うかべているのだから。



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