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結婚生活10

[708] 青木 めぐみ 2014-11-06投稿
「陽子、ちょっといい?俺、おまえに聞きたいことがあるんだ。」
俊樹がそう言い出して、陽子はドキッとした。

陽子は、俊樹が真剣な眼差しをすると、いつも緊張を覚えるのだった。

「えー!何?どうしたの?」
陽子は、いつも通りにふるまってみたつもりだった。しかし、俊樹の方は、俊樹らしさを少し失っていた。

何か顔色が冴えない様に感じられた俊樹が、暫くの沈黙のあと、背を向けてこう言った。

「陽子、俺がもう別れてくれって言ったら、別れられる?」

「え…?今何て?」

夫の突然の言葉に、陽子は心が揺らぎ出した。

(ちょ…ちょっと、待って俊樹…。なんで、そんなことが言えるの?それに、何だかおかしいよ?)

「私、そんなの考えられないよ?何言い出すの?急に…。」


"急に"、ではなかったかもしれない。俊樹がこの頃、元気があまりなかったことを、陽子は本当は気が付いていた。ただ、弘のことに気を取られ、俊樹を優しくケアする気持ちが減っていただけかもしれなかった。

「あのね、私…。私、そんなの考えられないよ?だって俊樹は…。」
言いかけて、陽子は、初めて気が付いた。

(そうだ。私にとって俊樹は、空気みたいな存在。とっても大事な存在。私どうして、弘なんかに、心奪われて…。)

陽子の頬に泪の雫が落ちはじめて、すすり泣く音が、部屋に響いた。

「陽子、今の言葉、本当にほんとか?信じても良いのか?」
俊樹は、傍に来て、陽子を優しく抱き締めた。

「うん、俊樹。…ごめんなさい、今まで、私…。私…、俊樹のこと、ちゃんと見ること出来てなかったかも。それに…。」

陽子の胸が苦しくなりかけた瞬間に、俊樹の唇は陽子の唇を塞いだ。
「それ以上言うな!言わなくていい。何も怒ってないよ、俺。ただ、陽子を永遠に失いたくないだけなんだよ?」
「俊樹!俊樹…。」

彼の背中をしっかりと抱き寄せながら、もう陽子の心は晴れやかだった。
飾ってある結婚式の写真も光り輝いて見えた。
[終り]

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