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彼女は幽霊タウンにて。

[602] 雛木 小冬 2015-01-12投稿
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  #? 異世界へ。
今日も特に何も起こらなかった。
西宮高校2年B組の俺・峯坂理緒はいつも通り学校からの帰宅後パソコンをいじっていた。
ほとんど引きこもり同然の生活を送っているのには理由があった。
俺だって好きでこんなだらしない生活をしている訳ではない。あの一件から何もかもやる気が出せなくなり生きている意味すら一晩中考えた。
それは俺の幼なじみ・吉木野恋夏が大きく関わっていた。

それは三年前になる。

休みの日、いつも通り漫画を読んでいたら電話がかかってきた。
その相手は恋夏で今週の週末何処か出かけないかという内容だった。
そんな話を長々と話していたら突然車のブレーキ音の様な音が電話越しに聞こえた。そして恋夏の小さな悲鳴が聞こえて電話は途切れた。不思議に思い何回も電話をかけたが結局恋夏の声を聞けず次に恋夏の話が出たのは訃報の話だった。ちょうど俺達が電話している時信号無視したトラックが突っ込んできて接触。そのまま恋夏は息を引き取った
そんな事があり、今の俺は見事に不登校、引きこもりになり、なんとか学校も行くようになったが未だに引きこもりがちなのだ。

だから家に居るのがほとんどだしパソコンといつもにらめっこ状態である。
「はぁ、そろそろ飯にするかな」
熱くなったパソコンを閉じてため息を吐く。
時計を一瞥すると午後6時半。気付かぬ間にそんなに経っていたのか。
確かにほおっておけば一日中パソコンをいじっている俺からしては途中に時計を気にするなんて珍しい事だ。
席を立ってリビングに行こうとすると突如携帯が震えた。見るとメールが来ていた。
「ん?誰からだ…?」
普段あまりメールは来ないので見当もつかなかった。携帯をとって差出人を見てギョッとした。
「え…な、んで……?」
差出人を見ると普通ならあり得ない人の名前が書かれていた。
「何で恋夏から…!?」
その差出人は三年前に亡くなった恋夏からだった。おかしな事に戸惑いつつ半分好奇心でそのメールを開いてしまった。
「…っ!?何だコレ…?」
その字は文字化けして読めなかったが下にURLが貼られていた。正直見たくはなかったがここまできて引き返せなかった。そのURLを開くと画面は電源が切れたかの様に真っ暗になった。そしてしばらくするとその画面に『WELCOME』と出てきた。
「え、何コレ…?」
少し焦り始めてきた頃画面にゆっくり人の形をした物が現れてそれは画面の中に映る少女だった。
「う、うぉっ!?」
その少女は長い髪をサイドにまとめ、ロングワンピースを着て猫耳帽子を被ってニコニコ笑っていた。
『こんにちは♪』
少女は爽やかに笑って画面の中を飛び回った。
「誰だよ…何で携帯の中に……」
この事態に見事俺の頭は混乱した。
『あ、じゃあまず自己紹介から♪私はヒーラギ。今回は君に用があって来たの。君は峯坂理緒で合ってるよね?』
画面の中から話しかけられるのはスゴく戸惑ったがしょうがなく頷くとヒーラギと名乗る少女は嬉しそうに笑った。
『そっかそっか♪探したよ君の事。やっと見つけた〜♪』
ヒーラギはふぅ、と安堵のため息を吐き地面に座った。でもちょっと後悔もしていた。よく不審者に自分の名前を言っちゃ駄目だと言われてきたし、もしかしたらこのヒーラギは悪いウィルスでこのパソコンを乗っ取ろうとしているのかもしれない。だとしたら名前を教えたのはまずかったか…?でも相手は俺の名前を知っていたしちょっとこれはヤバいかも…
『…?ちょっと君〜?何ボケッとしちゃってるの?おーい!』
ヒーラギは画面いっぱいに顔を押し付け画面を叩いている。
「その、ヒーラギ?お前一体何で俺の事知ってんだよ。あ、てかもう電源切っていい?」
電源ボタンに手をかけると慌てて手を振った。
『やめてやめて!もう怪しまないでよ!私はこの世界では画面の中でしか生きられないの!』
「いやそんなの聞いて納得出来る訳がないだろ!」
俺が言うとそれもそうかと顎に手を当てて悩みだした。
『ん〜、もう少し落ち着いてから話そうとしてたけどこの状態なら仕方ないね』画面の中で胡坐をかき指をビシッとこちらに向けた。『吉木野恋夏。知ってるよね?』
瞬間、背筋がゾクッと震えた。
「な、んで…恋夏の事…!」
『私は分かるのよ。恋夏と君の関係も恋夏が三年前に事故死した事もね?』
今までとは違う鋭く怖い目線に息を呑んだ。
『恋夏に会いたい?少なくとも相手はそう思ってるみたいだけど』「会いたいってアイツはもう死んでんだぞ?どうやって会うんだよ」
俺がそう返してくると思っていたのかすぐ答えは返ってきた。
『そんなの簡単。恋夏が居る所に私達が行けばいい。ただそれだけ』
「…!?そんなの出来れば苦労しねぇよ!」
携帯にいる少女に怒鳴るとヒーラギは二ヒッと悪戯な笑みを浮かべて画面に寄ってきた。
『恋夏も君に会いたがってるよぉ〜?』
「う、嘘だろ…アイツはもう……!」
『あぁ!物分かりの悪い人だなぁ!だから恋夏に会いたいの!?会いたくないの!?』
少し間を空けて小さい声で言う。「そりゃ、会いたいよ。でもそんなの出来ないだろ?」
さっきよりヒーラギは不気味に笑った。
『それが出来るとしたら?』
「え……?」
ストレートに言われてつい動揺してしまう。
『出来るんだよねぇ〜♪私には。正直に話すと私がこっちでは画面の中でしか存在出来ないのは私が向こうの世界で存在するためにエネルギーを沢山使っているからなんだよ』
「エネルギー…?」
『そ。私は人の腹から生まれてないの。難しく言うと人工的に作られた。そして私は世界を作った。死者が、まだ生きたかった死者が住める世界を創造した。で、恋夏も其処の住人にしてあげたの。恋夏は君に会いたがってる。だから私は此処に来た』
正直何を言っているか分からなかったがヒーラギの言いたい事は俺をその死者が住まう世界に連れていこうとしているのだろう。
「それよりも俺をどうやって向こうに連れていくつもりだ?まさかだけど俺を殺さないでくれよ…?」
『あっはは!面白い事を言うね♪残念だけど私には君を殺す力は無いよ』
で、と笑いながら言う。
『ここからはあくまでも君の意見を尊重するよ。どうする?死者の世界に行く?』
ニシシと笑い手をこちらに出している。
「よく、分からないけど…恋夏にあえるなら…行きたいかも」
『ふふ。その返事を待ってたよ』嬉しそうに言って途端、部屋全体を激しい光が包み込み一瞬意識を失いそうになる。

少しの時間が経過した。

もう何がなんだか分からなくなっていた俺は反射的に目を開けた。「…!?何処だ此処…」
「お、起きたかな理緒君。さて、今私達の目の前にあるドアを見てくれるかな?」
さっきと同じ声がした。でも先程の様な電子的な音声は混じってなく綺麗なヒーラギの声がだった。横を見ると携帯サイズだったはずの身長は普通の女子の大きさ、俺の肩くらいの身長になっていた。でもこの状況だし俺が小さくなったのかもしれない。
「ん?見るのは私じゃなくて目の前のドアだよ?」
やけに変な言い方をされて顔が赤くなったのを感じ言われた通り目の前にあるドアを見た。
「そのドアの向こうには恋夏の居る死者の世界『ホォニット』がある。準備はいい?」

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