平田はなにがなんだか分からなかった。 いきなり立ち上がった友人の下腹部から、長い鈍色の刃物が突...
皮の剥げた古いソファに座らされ、ゆかりと平田は居心地悪そうに体を、気付かれない程度にゆすった。 前...
ざっくりと切られて、血のにじみ出た腕。 脇には腹部から血を流して顔面を蒼白にしたゆかりが横たわ...
前橋卓巳はその口髭をたっぷりとたくわえた口元をさすった。 目の前には桐の木の箱に入った古くさい...
「真由子」 現実に引き戻される声。 低くも高くもない声はまだ声変わり前だからだ。 私はおびえた...
彼とは幼なじみ。 私が5歳か6歳くらいのころ、近所のお姉ちゃんが赤ちゃんをつれて帰ってきたこと...
「俺おまえんこと好きだ」やけに大人びた声で、二度目の告白をされたのは高校二年生の秋。 風のにおい...
「…あの部屋か…。」 急に平田は遠い目をした。本当にいきなりだったからゆかりはちょっと驚いた。「...
ゆかりの通う大学は、そこそこ地元では名の通ったところだった。 地元の名士が作ったこの大学は、私...
「んでも、それだけじゃない気がする…。」 生々しい、あの感情。今さっき、自分が受けたかのようなあ...