美加にはもうお迎えが来ていた。
「あ、来ちゃった。…あ、私、菜由美ちゃんの好きな人、なんとなくわかった。」
「え?」
出掛けに何を言うか、この女は。
「菜由美ちゃんのいいと思うタイプくらい、想像つくよ。じゃあね、またね。」
わーバカ!それだけ言って、去ってくなっ!
あ、でも、今の進一さんとの会話を見られたのかもな。ただ話していただけなのに。
おいおい、でも、誤解してたらまずいって。
♪ ♪ ♪
忘れてた、アンサンブルのこと。
『Jimpin' Five』という曲を一生懸命探してくれた岩田さん。まさか譜面代は自分でかぶっているのか?
まだ一度として、5人で通したことのない曲。はっきりいって、アンコンに出場することは諦めていた。この曲は練習曲っぽい感じだし、岩田さんもそれを承知で持ってきた曲なのかもしれない。実は、私はこの曲を前に演奏したことがあった。高校の合宿のとき。パート別で発表会をやるときにこれを演奏したのだ。こないだ通してみて、懐かしく思ったものだ。
一週間経って、また次の練習となったこの日、私は岩田さんに提案をした。譜面代を5人で頭割りしましょう、って。そしたら意外な返事が戻ってきた。
「ああ。あれは会費で出してるから。」
へ?私は驚いた表情をもろに出してしまった。出るかどうかわからないアンコンの譜面を、会費で購入させてもらったの?すごいっ、岩田さんって、そんなに会計を牛耳ってしまう力があるんだ。それなら、打楽器の女がわざわざ会計やらなくたっていいや。(良かった?!)
「あの曲とさぁ、もう一曲、何か用意しようか。あれだけだとインパクトに欠けるから。最近の曲は派手だからさぁ。やっぱり5人でできる曲を何か探してみるよ。」
岩田さんの一言にさらに驚いた。出るつもりなのだ、アンコンに。それにしても、最近の曲が派手なら、地味なこの曲は却ってインパクトがあるんじゃないのか?そうじゃなくて、審査される曲として、ふさわしいかっいコトだろ。でも、たしかにアンコンはインパクトが大事なのかも。いつしか、高校の部で〈コントラバス三重奏〉がグランプリをとったことがあったけど、編成だけでインパクトあるっていううわさがある。
インパクトなら、いい方法があるぞ。