記憶喪失…今日のさっきまで胡桃の事を名前で呼んでいた胡桃の彼氏、俊牙。今は全ての記憶さえ無くなっていた。
病院を出た胡桃と幼馴染の悠紀は暖かい夕方の路地を2人並んで歩いた。胡桃はいつもは自分から話を持ち出して来るのに今日は何も話さないので気になった。
「悲しいんだろ?」
悠紀は胡桃が無理に笑ってる気がして仕方なかった。
「なんで?」
「…泣きそうな顔してるから」
そう言うと胡桃は涙を一つ、また一つ流し始めた。
「あれっ、何でだろう。分かんないけど、何で涙出てくるの?私、どうしたんだろ…ごめんね、悠紀君…ごめんね。」
目を擦りながら胡桃は笑った。本当は悲しいのに誰にも苦しみを見せない胡桃…しかし涙を堪えることは出来なかった。
「本当に記憶なくなったのかな。変だよね…さっきまで私の名前呼んでたのに。あれは夢だったのかな。」
悠紀は今すぐ胡桃を自分の腕の中に抱き締め苦しみを癒したかった。しかし、胡桃を抱き締めても胡桃の苦しみを癒すことは出来ない。胡桃を癒せるのは記憶を失う前の俊牙…ただ一人だけだから。