< 第 一 話 >
「はーーーい! みんな、ちゅーもーく!!」
ある日のお昼休み。
昼食を終えてオシャベリをしたりメールをチェックしたり、それぞれに次の授業までの午後のひと時を満喫していた。
そんな時、クラスのムードメーカー的存在のA乃が、まるでスポーツ大会の選手宣誓でもするかのようにワザとらしく派手な声で叫んだ。
周りの子はクチを止め、手を止めて、顔をA乃に向ける。
私は、さして気に留める事も無く窓際の席で本のページをめくった。
A乃は周囲の視線を感じながら、これまたワザとらしくコホン! と咳払いをして話を続けた。
「私……ナンパされちゃいましたーーー!!」
「えーっ!?」「うそーっ!?」「マジーっ!?」
クラス中から驚嘆の声が上がり、A乃の周りにはアッと言う間に人だかりが出来た。
自分一人が静観を決め込むのもどうかと思われ、何となく輪の一部に加わる。
A乃は嬉々として「武勇伝」を語った。
…場所はネオ・シブヤ、待ち合わせスポットとして有名な『ポチ公前』。
彼女は、近くのデパ地下でパートをしている母親と待ち合わせをしていた所をナンパされたそうだ。
「…でもでも、私、お母さんと待ち合わせしてたしぃ、それにまだ中学生じゃん♪」
ここは女子中であり、言うまでも無く男子はいない。
「どんなオトコだった?」「本当はついて行きたかったんじゃないの?」「エッチな事、されなかった?」
女だらけの教室では結構「ストレート」な表現も飛び出す。
♪キーン コーン… カーン コーン…
午後の授業の始まりを告げる鐘が響く。
だが依然として教室の中は騒然としていた。
結局、「ザマスメガネ」の愛称で親しまれている(?)数学の女教師がヒステリックな声で教室に飛び込んでくるまでA乃の「ナンパ騒動」は続いた。
つ づ く …