ずっと忘れない。
彼が僕らと一緒に過ごした日々
早くこっちにおいでよ。
4月 〜鐘朧〜
「ドラムならいい人おるんやけど。」
彼女がそう言った時、俺は妙な違和感を覚えた。
その違和感の正体にその時は気付かなかったけれど…。
「誰?俺知っとる人?」
「どうやろ…。弓道部の友達なんやけど…タクは知らんかな。」
去年の3月に部活を辞めてしまった俺は前から少し仲が良かった女子とバンドを組むことにした。その女の子がベースを始める時に少し助言をしたのがきっかけで、音楽の趣味が合うことがわかり、彼女が上手くなったら一緒にバンドをしようと約束した。
「知らん人でもええ?」
「いいと思うよ。そいつ上手いん?」
「1年のころからやっとんでかなり上手いはずやで。ただ気難しいからバンド組めやんみたい。」
「…大丈夫なん?」
そんなヤツといきなりバンドを組もうという彼女の心境がその時はわからなかったが、他にいないならしょうがないと大して深くは考えなかった。
「平気!付き合ったらいいヤツやし!」
「じゃそれについては沢口に任せるわ。」
「任しとき〜!」
メンバーに関する相談を一通り終えると俺たちは曲の練習を始めた。
その日沢口の弾くベースのリズムがいつもとわずかに違うことに気付いた。
穏やかな彼女が弾くベースはどんな曲を弾いてもやわらかで、その中に少しだけ感情が見え隠れする。
(何かいいことあったかな…)
彼女のベースが紡ぎ出す音はいつものようにやわらかだが、普通の人にはほとんどわからないくらいに弾みが含まれていた。
それが何故か俺が気付くのはもう少し先。
俺たちの仲間になるはずのドラマー、彼に会った時だった。
続く