帝国が辛うじて互角に対抗出来る、火力と機動力とに焦点を絞ってみても、乗員達の居住性と衛生面を、極限までに削り落とした上に、成り立っているのだ。 統合宇宙軍に、女性兵士がいないのも、銀河最悪の武頼集団と呼ばれるのも、その位でなければ、過大な肉体的・精神的負担を伴う艦内の環境に、戦闘以前にとても堪えれない事を、反映しているのだ。 おまけに、連合艦隊側には、三0000隻に及ぶ産業船団《IPC》がある。 時が経てば経つ程、ボディーブローの様に帝国を苦しめるのは、寧ろこっちだ。 人命以外の全てを生産・供給して、前線に送り出す力がある。 ここで、大本営次長は、再びパネルカードを操作して、パレオス星系の奥、五・三光年離れた宙域図をクリックして、スクリーン一杯に拡大した。 スパイラル・スペースに通じる、超重力収束点、エントレンスと通称される、人工的に造られた、次元の出入口だった。 三百年前に、廃棄予定の最終兵器を利用して『開け』られ、これを伝って星系合集国軍はやってきた。 銀河最外縁と中央域文明圏を結ぶ、唯一のルートで、通常の時空集約航法《CSCS》で、同じ事をしようとしたら、四0年プラスマイナス五年と言う、とんでもない、時間を費やしてしまう。星系合集国人も、そして帝国人も、そこまで気は長くはない。 やって出来ない事ではないが。 『この一帯を押さえてしまうと言う案もありましたが、今の所見込みは薄いと考えられています』 エントレンスを制圧してしまえば、敵の退路を断てる上に、増援部隊も、出てきた端から狙い撃ち出来る。 独創性と芸術性に満ちた発想に思えた。 だから、実戦部隊の長、レイモンド=フォア=ギニエール辺りが、激しく突き上げたのだ。 曰く『俺に精鋭一000隻、否、一00だけでも良い。使わせてくれたら、敵主力をここまで引きずり込んで見せる』と。 しかし、左総長クレオン=パーセフォンは、この奇策に否定的な見解をもっていた。 戦略策定の最高責任者として、ただでさえ少ない戦力の無駄使いは、つとに避けたい所だったからだ。