ミズキは目が覚めると同時に体の異変に気付いた。体というよりも顔のパーツの唇の異変だ。上唇がなんとなくムシズがはしるような感覚におそわれた。自分の舌を出し上唇をペロリと舐めると、上唇の左部分になにやら突起物ができている。それがわかったと同時に嫌な予感と嫌な出来事を思い出した。
逆上れば今から約10年程前、ミズキが中学に入ってしばらく経った時の事。友人のサチと学校のグラウンドの隅で話していると、サチの唇になにかできている。思わず『唇、どうしたの?』と聞いてしまった。サチは苦い表情をしながら『これ、ヘルペスっていうんよ。もう、こんなんできるなんか最悪や。気持ち悪いし、堂々と人前に出られん』と嘆いていたが、ミズキにとって所詮は他人事。気にしない方がいいよと一言いってその話も三分後には別の話題になりヘルペスの事などすっかり忘れた次の日。ミズキは朝、顔を洗いに洗面台の前に立ち鏡を見ると、ギャァッ!と一言叫んだ。不思議な事に、サチと同様、上唇の左部分にヘルペスができていた。鏡を覗きこんでみると、白く水膨れの水泡ができグジュグジュとして気持ち悪いのなんので。急いで皮膚科にいったが治ってもすぐに再発するので約一ヵ月間このヘルペスに悩まされた。
昔の出来事を思い出し、まさかと思い洗面台の鏡の前までダッシュで行き、急いで鏡を覗きこんだ。ギャァッ!と思わず叫んだ。嫌な予感は的中!昔、できていたヘルペスは同じ場所にまたできていた。鏡でできているヘルペスをよく覗きこんでみると、白い小さな水泡がパラパラといくつもありそれが一つとなり一種の華と見えた。気持ち悪いの一言につきる。ミズキは何を思ったのか頭にきて両手の人差し指を使ってヘルペスをグシャリとトマトが潰れるかのようにして一つ一つ潰していった。なんでこんな忌まわしい物ができるの!と思いながら部屋に戻り再び布団の上に横たわってゴロゴロしているうちに、眠りについてしまった。眠っていれば何も考えなくていい。頭にくることがあってもストレスがたまっても、たらふく眠ればいつの間にか忘れる…ミズキは心の中で強く思った。