「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」涙が次から次へと流れ落ちた。 家中の電化製品が一気に付いたせいで電子音が部屋中に鳴り響いた。TVから『あかねちゃん』の唄が聴こえてきた。彼女の唄は今の僕の現実とは関係なく、あのロングヘアーをかき上ながら、少し緊張した面持ちで唄っていた。 『あかねちゃん』の事など どうでもよくなっていた僕がそこにいた 。 母も友達と同様抵抗したのだろう、右手には包丁が握られていた。どう言う心境だったのか、今日僕が遅く帰って来ることが、あなたにとって幸いだったのか?僕が普段通りに帰っていれば状況は変わっていたのか? 僕は悲しみの中で『その女』を殺す決心を固めた。 母の手から包丁を取り出し、二階…すなわち僕の部屋へ向かう! 「今は危険よ、警察に連絡しなきゃ」 彼女が少し声を殺しながら居間に入ってきた。「待ってよ、俺は絶対その頭のイカレタ女許さない、警察呼ぶ前に俺が ぶっ殺してやる!」 「その気持ちは分かるけど、あなたじゃ無理よ」 「ほっとけよ!あんたじゃ無理だったかも しんないけど……あんたがもっと早く来てくれてれば…」 僕はやりきれない絶望感を全て彼女にぶつけていた。(ヤツアタリもいいとこだ 彼女も必死に駆け付けてくれていたのに違いないのに) 「そうね…私がもう少しだけでも早く来れたら…」 彼女も全身傷だらけだきっと母の為戦ってくれていたのだろう。 その黒い髪の隙間から涙が流れているのが分かった。 「ごめんなさい」僕は彼女の頬の傷口を撫でて謝った。