「あのう、まだ名前聞いてなかったですね、母とは何時知り合ったんですか?」 「……」 「あ、すいません こんな時に…」 「いいえ、いいのよ私、のり子…黒田のり子よ」 黒田のり子…ずっと前だけど母さんから聞いた事がある名前だ。 僕はヌルッとする階段を一段一段慎重に上りながら、その名前を思い出していた……。 (あっ―――! 確か10年位前母さんがスーパーのパートをしている時に同じレジ打ちの人で黒田とか黒木と言う人の話をしていた事があったぞ!) 当時、僕はまだ小学生だったんだけど、離婚したばかりの母さんの事を一生懸命励ましてくれて、当時僕らが住んでいたボロアパートにもよく遊びに来ていた人がいた。 「黒田さんは昔うちの母と一緒に働いていた事がありますよね?」「…そうね、もしかして思い出してくれた?」 「はい、余りハッキリとは思い出せないんだけど…僕ともよく一緒に遊んでくれた…お姉ちゃん?」 「ふふ…すっかり大きくなったわね」 「はい、母がいつも あなたの話ばかりしていたのを思い出しました」 「そうね、順ちゃんとは本当に お互い助け合ってたわ」 「はい、そうみたいですね」 僕は少し嬉しかった。何年も会っていなかった二人が、母の為に駆け付けてくれていたんだ。……なのに……。「順ちゃん…いえ、お母さん あの人の事も 話していた?」 「え…?」 「そう、話してなかったのね…」 「誰…ですか…?」 「ううん、いいの あなたの お母さんが話しをしていないのなら私から話す事じゃないわ」 僕は彼女の言う『あの人』と言う言葉が妙に気になった。 「もしかして…この事件と関係がある話なんですか?」 僕は前方を気にしながら彼女の方へ振り向いた。 「…わからない…ただ…あの目…こんな酷い事が出来るなんて…」「何か…!」はっ!僕は思わず大声を出しそうになった。