フサフサの毛並みとピンとたった尻尾を冬の澄んだ風になびかせながら、一目を避けての夜の散歩を満喫している犬、と夜の散歩に無理矢理連れ出された飼い主らしい少年と、その横を不満顔でついて歩いている青年。
二人と一匹は満月を明かりがわりに、人通りのない通りを進んでいく。
「灰都【カイト】〜、このバカ犬の散歩なんかにつきあわなくってもイイじゃないかぁ〜」
散歩に飽きた青年が少年の袖を引いて散歩の切り上げを提案してくる。
ここまではまあ極々普通の散歩の様に見える。が、二人と一匹の散歩は、普通の散歩とはまったく違っていた。何が違うかと問われれば、
『バカ犬だと!!灰都殿に取り付いている疫病神が何を言う!』
「この私が疫病神!!
神もいない神社の狛犬が!!身の程を弁えろ」
先頭を意気揚々と歩いていた犬が振り返り、牙を剥き出しにして青年と喧嘩をはじめたのだ。
そして、それを当然の様に苦笑を浮かべて見ていた少年がやんわりと仲裁に入る。
「もう、いい加減やめなよ。近所迷惑だからさ」まさに鶴の一声。
口喧嘩をやめた青年と狛犬は、プイっとお互いに顔を背けた。
「コマの散歩は夜しか出来ないんだから、蛍宵もそれには文句言わないって約束したよね」