俺は絶望の中にいた。響きわたる騒音、歓声、罵声、の中で…
1998年夏
「おい!拳!拳!」
「あっ!すみません、ボーッとしてました。」
「たくっ!タイトルマッチ控えてんのに余裕だな。」左からのフックが飛んで来た。
「痛っ!」それは見事に俺のボディを捕えた。
「馬鹿やろー!ソレくらい我慢しろ!休憩だぞ。」
言わなくても分かると思うが俺の職業はプロボクサーだ、28才というプロボクサーとしてはギリギリの年齢でやっと日本タイトル間近までやって来た。
そして、さっきまで話してたのが俺をこの世界に引き込んだここ[桜田ジム]の会長兼トレーナーの桜田与一郎小さいジムだがそれなりに実績あるジムだ。
「拳坊、今回のタイトル取れば世界の道が出て来るんだ、もっと気ぃ引き締めてやれや。」俺の隣に会長が座り言った。「会長に心配されなくても、腹ぁくくってますんで。」「どうゆう意味だ?」少しの間…「今度タイトル取れても、取れなくても、引退しようと思うんです。」会長は眉一つ動かさない「そうか、だったら気ぃ抜いてんじゃねぇぞ!最後くらいい夢見してくれや!」「はい!」
それから今日のトレーニングはいつもの何倍も集中して行われた。