『猫さん、君もひとりぼっち?』
その日は、雨が降っていて、まるで世界がこのまま凍りついてしまうんじゃないかと思ってしまうくらいに、冷たい、冬の夜だった。<その人>は、古ぼけた段ボール箱の中で、まるで使いふるされたボロ雑巾みたいに心も身体もくしゃくしゃになって震えていたわたしを、ぬいぐるみか何かでも持ち上げるかのように軽々と、でも、優しく抱き上げた。―正直、驚いた。だって今まで、こんな汚いなりをしたわたしに、こんなえたいの知れないわたしに、こんなにも優しく接してくれたヒト、初めてだったから。だから、あの日の事は、今でもはっきり覚えてるの。あの日降っていた雨は、弱っていたわたしの身体に、まるで氷のように、容赦なく突き刺さってきて、わたしの体温をどんどん奪っていったけど、あなたに抱かれて、身体にあなたの温もりを感じたあの瞬間だけは、わたしの上に降り注いでいた雨が、優しく、そして今まで感じた事がないくらいに温かく感じられたの。こんな気持ち、人間のあなたにはわからないでしょう?というより、あなたには、こんな思いして欲しくなくて、あなたの側にいたいと思った。だから、その日からわたしは、あなたの『猫さん』になった。