血だ。血だ。血。あたり一面に血の海。あそこにも、ここにも、血なんだ。血だ…
本当のところは全く血なんてなかった。怖くてカミソリで少し傷つけただけだった。こんなことしても無意味だった。死んで幸せになれるなんて保証はない。きっと自分は不幸せになる運命なのだ。きっと死んでも一生天国になんかいけっこない。そもそも天国なんてあるのか?神様なんているのだろうか? 洋服のまま湯船の中に仰向けになって換気扇の穴を眺めていた。シャワーをだしっぱなしにしているためそろそろちょうど腰のあたりまで水が溜まってきたところだ。傷口から出た血がにじんで、水をにごらしている。お風呂場から出て身体をふく。バカな事をしたと思った。手首なんかに傷をつけたら周りから丸見えだ… そろそろ冬になってきたから長袖で隠そう。でも誰かに見せたところで誰が心配するっていうんだろう…いろんな考えが頭の中をぐるぐる回って気分が悪くなってきた。時計を見ると深夜の2時だった。起きてても意味はない。だけど不安だった。眠ってしまうと朝が来るから。起きてても朝は来てしまうけど、眠るなんて恐ろしいと思った。時間が過ぎていくのが、怖い。少しでも未来に近づくのが怖かった。先の自分がどうなっているかなんてこれ以上は知りたくない。だからと言って簡単に死を選べる訳ではなかった。死ぬのも恐ろしい。なんてワガママだろう。自分で考えてて自己中だ。いっそのこと、誰か殺してくれないか。車でおもわぬ事故。ナイス考え。誰かタイミングよく私を引いてくれないだろうか?そんな確率、バカみたいで笑ってしう。ソファに座ってから、意味はないけどテレビをつけて、何かに焦りを感じながら今この時間は何かに役立ていることを信じていた。
ただぼーっとしてソファに寝転がる。こうすることが不安を解消させるに違いないと…。天井を見つめる。このモヤモヤとした気持ちは一体どこからやってきたのだ。そしていつ出ていくのだろう?……夜更かしはいけない。
やっぱり眠くなってきた。テレビの画面がチラチラと映っている。中年のおじさんがとても切れ味がいいんだ!と包丁セットを紹介している…
今の気持ちと何もかもを、その包丁でスパッと切ってくれないだろうか…
歯を磨いてない… 眠い。それから光りが何も感じない真っ暗が襲ってきて、ついに耳もふさがれて、それから意識がとおのいていった。