現実と夢の狭間で…本編22

満真  2006-12-08投稿
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私は勤めが休みの日に、寮へと出掛けて行った。妻の『幸江』は私が何処に出掛けるかを問い詰める事はしないでいる。問い詰められる前に、何処へ出掛けるかを知らせてあるからだ。幸江が忌み嫌う場所…それは母が病気療養していた寮だ。手土産は持たずに寮へ足早に向かう。そして、寮に着くと弥一が出迎えた。
私が来るのを判っている事で、平助は支度をしていた。そう、今日は『さよ』と『ちよ』に逢わせて貰う為だ。

「旦那様…ちよとさよはこの近くに…」
「判った。行こう、平助」
足取りは重かった。平助の横顔は酷くやつれていた。長屋の女が言っていた事が真の事ならば、私は悔やんでも悔やんでも悔やみ切れない。じゃりじゃりと道を歩く音がするだけだった。覚悟をしなくてはならないが、心は覚悟が出来ていない。
私の幸せは二度と戻らないのだ…武士と言う身分でなければ、私の幸せは無くなる事はなかったのだ…。

暫く歩くと、古い寺に着いた。その寺はあばら屋と変わらないでいた。だが、その寺には坊主が居た。平助は寺の中へと入って行く…私は平助の後を付いて行くしかなかった。そして…私の眼に見えたのは…二つの墓だった。

「旦那様…さよとちよでございます…」
平助が言わなくても判っていた…私の眼から雫が零れた。幾つも幾つも雫は絶え間なく零れ落ちた。男が泣くものでは無いと、生前の父から厳しく言われた。
私は墓の前で泣き崩れ、大声を上げて泣いた。悔やんでも悔やんでも、さよとちよは生き返って来ない。子が生まれた時に長屋ではなく寮に匿えば、私の幸せは続いていたのであった…。



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