野々村順子は夫との離婚で生活が苦しかった。これまでにも幾つかのパート面接を受けて来たのだが、子供がまだ小さいと言う事で どこの会社も敬遠しがちだった。このAスーパーは今住んでいるアパートからも近いと言う事で土曜、日曜日も働けると言う条件でやっと採用されたのだ。「あんたに どんな事情があるか知らないけど青田が私に あんた達の事を頼んできたのよ、私がいいって言ってるんだから いいのよっ!レジ打ちなんか馬鹿だって出来るわよっ!」 「あなた頭おかしいんじゃないですかっ!」黒田のり子は声を荒らげた。 「私達は全くの新人なんですよ、そ…それをバーコードでピッピッはい終しまい?そりゃ出来るわよ!でも、基本を教えてくれるのがあなたの役目なんじゃないんですかっ!」 「うるさいわねぇ!じゃあ青田を呼んで来なさいよっ!」志津恵は側に置いてあったゴミ箱を蹴ちらすと事務室から出て行ってしまった。 二人はしばらく黙りこんでしまった。 「ありえない…」 のり子が静かに呟いた。 「こんな事って…ありえない、野々村さんは どう思いますか?新人に仕事を教えないって…ありえないですよ」 まだ若いのり子は着ていた制服を脱ぎながら興奮していた。 「駄目よ黒田さん、あなたこのまま辞めてしまうの?とりあえず青田店長を呼んで来ましょ?」 「全くあの青田店長も何で私達に あんな変な女…」 「そうね、とりあえず私が今呼んで来るからいい?帰っちゃだめよ」 そう言って順子は事務室を出て行った。 順子は少し焦っていた。 (もう、お店は開店しているのに…黒田さんも帰らなきゃいいんだけど…) 店長室の前まで来ると何やら中で揉めている声が聞こえてきた。