肩を波うたせ、間欠的に嗚咽をくり返す大沢千尋。
思わず席を立ったものの、かけるべき言葉さえ見つからず、僕は立ちすくんでいた。
「千尋ちゃん……」
静が穏やかな声で泣きじゃくる娘に話しかけた。
「…!」
千尋はその声にピクリと反応する。
驚いた猫かよ…などと不謹慎極まりないことを思いながら、僕は静先生にこの場を託そうと判断した。
「ふふふ、…凄くインパクトのある写真でしょう?
まさか夢で何度も逢っていた男性が、実在したなんてね…。 私、死ぬほど驚いたわよ?」
「え、……」
囁きが耳に届いたらしく、千尋は泣き腫らした目をゆっくりとそちらへ向けていった。
「関東大震災、知ってるよね?
この写真は、震災で倒壊した住居の母屋跡から発見されたのよ。
もちろん二人共その時に亡くなってる、…と言うよりも記憶にあると言った方がより現実に近いわね?慎司さん」
「う、まぁ…ね。
あの、急に話を振らないでくれよ。
正直な話、一度に何百年分もの記憶が甦ってこっちはパニック状態でね。
心臓が停まりそうになるわどれがいつの記憶か判然としないわでもう…」
「そうだったの…。
慎司、疑ってごめん」
「私はね、…半狂乱になって部屋中メチャメチャに叩き壊したわ。
そもそも漁師のおかみさんでございますから。
千尋お嬢様のようにサメザメと泣いてるようなしおらしさは、…オホホ、薬にしたくとも無いわよね」
「うふっ♪静先生ったら可笑しい〜」
「身に…つまされる」
おどける静を見てクスクス笑いだした千尋。
その話を聞き、改めて部屋を眺め渡すと確かに家具や調度類が真新しい。
にわかに非業の死を遂げた瞬間の記憶が甦ってきた僕は、笑うどころか……冷水を浴びせられたかのような気分を味わっていた。
転生を繰り返すという事はすなわち「何度も死ぬ」と云う事に他ならない。