『その内コウノトリがやって来て、金の卵を落として行ってくれるさ』
スコットはいつもこう嘘ぶいては、話をはぐらかしてしまうのだった。
瓢箪から駒。
この最外縁を見向きもしない中央域文明圏から、コウノトリどころか最新鋭の星間軌道対応船が、金の卵ならず当代最優秀の若者達を寄越して来たのだから、スコットの予言は素晴らしいおまけ付きで的中を見たのだ。
そしてこの場合、本体よりもおまけの方に、何倍もの価値と注目が、与えられた。
人質も取らんし礼金もいらない。お前達の中で一番若くて優秀な社員を一人置いて行けと言うのが、帝国が彼等の出発に当たり突き付けたただ一つの条件だった。
統合宇宙軍は何と、千載一遇の機会だったとは言え、自分達の総帥に、異国からの遭難者を据えようとしたのだ!
融資・技術・情報・代員の派遣―公社側の提示した交換案は全て一蹴された。
辺境の迷信深さは、遠来の客人に何か不思議な霊力やご利益があると、信じて疑わないまでに度し難かったし、またそれは一面で、この宙域の歴史的記憶に基づく、忠実な経験則でもあった。
運命と悲劇のル―レット盤上に載せられるべく、最終的に絞り込まれた年少の幹部候補生十六名こそ、皮肉な事に、統合宇宙軍が次期皇帝候補として特に指定していた逸材その物だった。
ドックに係留されたままの研修船の中で、彼等だけが残されて、誰が人柱ないし犠牲に志願するのか、話し合いがもたれ、それはぶっ続け三六時間にも及んだ。
具体的には、どんな内容だったのかは、ほとんど明らかになっていない。
しかし、これも信じられない事に、統合宇宙軍側は会議中、催促や圧力の類は一切試みず、ただひたすら静観していた。
そして候補達が憔悴し切った姿で船から出た時、その中の一人、コ―ヒ―色の頭髪を持つ青年が、自ら名乗りでたのだった―そう、かれこそエタンだったのだ。
謎多き選出劇ではあったが、帰還者達の証言を総合すると、この二点だけでは、完全な一致を見ている。
時に入社一年未満の二三才の候補生は、即日軍監部によって帝位に推され、五日後には満場一00万将兵の歓呼と宣誓に包まれながら、即位式を挙げた。 幸か不幸か、第四世皇帝としての初めての仕事こそ、解放成った旧同僚達の送別式の主宰と、エントレンスに向かう研修船の警護の指示だった。