現実と夢の狭間で…本編23

満真  2006-12-12投稿
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私は勤めが終わると、真っ先に『さよ』と『ちよ』に逢いに行った。その足で寮に向かう。弥一は私の為に働き、平助は私を温かく迎えてくれた。屋敷には戻りたくない…私の居場所は此処なのだ。せめて、さよとちよの傍に居たいと思う。日も暮れかけた頃、屋敷の奉公人。つまり、妻の『幸江』が連れてきた奉公人が私を迎えに来た。迎えが来た以上は、屋敷に戻れなくてはならない…後ろ髪を引かれる思いで帰路に着く。

「旦那様、幸江様がお怒りです…」
「そうか、皆まで言うな。お前を寄越したのは、此処へ己から出向きたくないからだろう」
「御意」
「お前が来る前に、屋敷に戻る。それで良いだろう」
「御意」
私を迎えに来た下男の名は『八十吉』と言う。口数は少ないが、働き者で良く仕えてくれている。この男、こう見えても口は堅い男だ。私が寮に出掛ける事を、知っていても幸江には告げ口をしないのだ。理由は判らんが、私に大変仕えてくれている。

「旦那様…卑しい者がこの様な事を聞くのは無礼だと思っています…旦那様は幸せですか?」
「…八十吉」
「今の旦那様は…幸が無いと思われます」
「お前…何故、それを…」
「幸江様には内密にお願い申します…生前の大奥様が、何処へ出掛けるか…跡を付けたのは己です」
「真逆…お前が幸江に告げ口したのか!」
私は怒りで八十吉を斬り捨てたい思いになった。
「滅相も御座いませぬ!幸江様に告げ口など出来ませぬ!只…旦那様は心に決めたお方が居ると前々から思っておりました」
八十吉がその様な事を口にするとは思わなかった。私がさよを好いていた事を、この男は知っていたのだった。

提灯の明かりが道を照らし、じゃりじゃりと二つの音が夜道に響く…後は、弥一が仕入れた話を聞くだけと心で呟いた。屋敷に続く道は暗く、提灯の明かりだけが揺ら揺らと揺れていただけだった。

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