衣替えは、桜庭学園の女子生徒にとって憂鬱な時期だ。黒のジャケットに男子生徒は目を瞑れても、黒い縁取りが入った茶色のボレロとジャンパースカートに目を瞑れる女子生徒はまずいない。これが盛夏服になると、大きな丸襟にピンタックの入ったオーバーブラウスと茶色のフレアスカートの組み合わせになる。ちなみに、修学館の女子生徒の盛夏服は、水色の襟に黒いネクタイのセーラー服。この事が彼女達の不満を煽っているのだ。
「あ〜あ。また嫌な季節がやって来たわー。高校が減っても、可愛い制服に指をくわえるのは変わらないんだもん!」
進学クラスの野中泉は、制服のデザインに不満を呈する。太く濃い眉毛と細い垂れ目がコンプレックスの種で、肩まで伸びた髪全体にシャギーがかかっている。
「そうね。統廃合された高校も、制服が可愛いって男子が羨ましがっていたけど、妹が修学館のセーラー服を着ているのかと思うと、嫉妬しちゃう」
統廃合されたばかりの高校は、水色のシャツに紺のブレザーとグレーのボトムを合わせる制服が好評で、桜庭学園の生徒の新たな羨望を生んだ。統廃合前のありきたりなチェックのスカートはそれはそれで可愛かったが、種類が増え過ぎると、さすがに飽きてくるらしい。
下校時、修学館の生徒と遭遇すると、桜庭学園の生徒は自分達の立場の弱さを嫌という程思い知らされる。みくが泉と二人で下校している時、高校で出来た友達と一緒に書店に寄って来た名波と鉢合わせになった。
「少女趣味の制服の眼鏡をかけてる方が名波のお姉ちゃん?」
「しっ! それ言ったら桜庭にいやいや通ってる人が傷つくでしょ?」
「寄り道駄目、寄り道駄目、恋愛駄目では、桜庭へ行った友達と気軽に付き合えないもんねー」
名波の言う通り、桜庭学園の女子制服は自分達の制服を少女趣味の一言で片付けられると傷つくものだ。それを人前ではっきり言われるのは屈辱的である。「こんな制服じゃあ、他校の男が寄って来ない」のは仕方のない事かも知れない。それをほぼ毎日晒されているみくは、博文への恋心に深く傷付いていく。