西村拓朗は腰の拳銃に手をかけていた。 (あの女が次にアクションを起こしたら俺は撃つ)その時だった――――――――――。 「ギャァァァ!」 志津恵が顔を両手で覆って倒れた。のり子は志津恵に引きずり出される時に灰皿の小さな破片を手に隠していたのだ。 一瞬の隙を見て のり子は志津恵の顔をめがけて その破片で切り付けた。破片は志津恵の目と眉毛に向かって一直線に描かれた、志津恵の返り血で赤かった顔から志津恵自身の赤い血が吹き出した。「今だ!」西村拓朗は叫ぶと一斉に警官達が志津恵に飛び込んで行った。 「ふざけるな!ちくしょう!まだまだ殺ってやるんだ!」志津恵は奇声を発すると灰皿の破片を振り回し必死に抵抗をしていた。 警官の中には怪我を負う人もいた。 「落ち着け!落ち着くんだ!」西村は志津恵を取り抑えると冷静になる様に揺さぶった。「ヒヒヒ…お前達のせいで殺る事ができなくなったよ…ヒヒヒ…みんな…みんな…絶対に殺ってやる…絶対に…」志津恵は西村に唾を吐いた。 外には既に多くのテレビ局やマスコミが駆け付けていた。 のり子はすぐに病院に運ばれ、青田清二の遺体も収容された。 後に分かった事は黒木志津恵は二年ほど前から青田清二と不倫関係にあって、その間何回かの中絶の為、病院の入退院を繰り返していた、その事はスーパーの社員達も薄々は知っていたのだが、志津恵の精神状態も病んでいき、そっちの病院にも通院していると言う事は誰一人として知っている者はいなかった。 マスコミは今回の事件を面白おかしく書き上げた、『不倫愛の成の果て!』 『壮絶!病に犯された愛人の狂気!』 『心に闇を持った女の壮絶犯行!』など次々にテレビや新聞の見出しを飾っていた。 志津恵は世間からは『暗闇の女』として語られる様になっていた。――――――――この事件が数年後に新たな悲劇をもたらすとは誰一人として知る者はいなかった。志津恵以外は……。