住宅地の中にある小さな駅は騒然となった。飛び降り自殺をした張本人、中川則子の近くにいた中年男性の一人は貧血で倒れ、若いOLは携帯電話で勤め先に連絡していた。彼女は半ば興奮気味で今さっき自分自身の目の前で起こったことをマシンガンのような口調で相手方に話している。
「人身事故が起きたんですよっ!今、私の目の前でっ!はい、はい、えぇ、そうなんです。そうなんですよ!えぇ、電車は当分動かないかと……。はぁ、それが女子高生らしく……」
そんな彼女の様子を少し離れたところで見ている者がいた。黒い髪をなびかせ、黒の学ランに、黒の運動靴を履いている。
どこにでもいる、ありきたりな容ぼうだが、彼らとは決定的に違うもの。それは、限りなく闇に近く、黒く鋭く尖った瞳。今までに人を何人もあやめてきた者のみに宿る独特の光。
そして、それは彼が黒咲笛太であることを十二分に現している。
「馬鹿なヤツ」
彼のつやのある唇からポロリとこぼれ落ちた言葉は何とも残酷なものだった。