博文とみく・名波姉妹の家は、古い住宅街の一角に向かい合うように建っている。外観から昭和レトロの匂いが漂う真瀬家は、建物の二階部分を姉妹が占領している。六帖と四帖半の二間続きの畳部屋の窓から博文の家を覗くと、総勢10人の高校生が集まっていた。築年数40年以上の松風家は、コの字型の和風平屋建てに囲まれた内庭がみくのお気に入りだった。
両家を挟んだ公道で、博文が亜鶴に抗議している。
「中道、いくら何でもみくん家はねーだろう!?」
「そ〜お? でも、桜庭へ行った子に聞いたら、もうみくとは関係ないように振る舞ってるそうじゃない」
「博文に直接文句を言わないで桜庭の奴らに陰口を叩くなんて、どうにかしてるぞ!」
「裕介君、苦言はその辺にして。ほら、博文君、君のために折角アズ君達がお膳立てしたんだよ。さ、インターホンを鳴らして!」
「分かったよ〜」
孝政に催促され、博文は真瀬家のインターホンを鳴らす。年配の男が応対に出た。甚平姿の男の長髪は額の両端が禿げ上がり白髪が多く、眉毛は何故か黒々としている。
「ややっ? これは博文君ではないか! 孝政君に裕介君も……いきなり大勢で家に押し掛けて、みくと一緒に勉強したいというのか?」
「そうなんですよ。青海に行ってる友達が勉強会をやろうと言い出して、それならみくと一緒にやる方がいいだろうという話になって、久々にお邪魔しに来ました」
「成程。僕も外で君位の人と触れ合う時間がなくなって、退屈していた所だよ。では皆さん、ようこそ此処にお越し下さいました。玄関のすぐ右手がお手洗いになっております。ご自由にご利用下さい」
男は博文達を快く迎え入れた所で、みくを呼び付けようとする。階段を降りてきたみくが発した一言に、臨、千聖、佳純、州和、祥恵、彩子は己の耳を疑う。
「お父さん、どうしたの? 急に博文君達を家に入れてあげて……」
「この子達がお前と一緒に勉強したいってきかなくてねぇ、父さんも退屈だったから入れてあげたんだよ」
言い出しっぺの州和は、勉強会そのものよりみくの父の振る舞いに不安を抱いてしまった。
(このオッサン、一体何者なんだ?)