彼の恋人

高橋晶子  2006-12-15投稿
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みくの父・克彦の案内で、博文達は和室を通された。六帖の和室は横に三間続きになっていて、奥には畳部屋に似合わない電子ピアノが鎮座している。
みんなで炬燵と座卓を並べて自学自習。博文とみくは炬燵に向かい合っている。
「みく、桜庭で使ってる教科書見せてみな」
「いいわよ」
博文は、修学館で使っている英語の教科書と桜庭のそれを比べて見る。
「うわぁ! 修学館よりレベル高そうじゃない? 選抜クラスはこんなもの使って授業受けてるの?」
みくの横に座っている亜鶴が割り込んできた。
「ウチの高校は、就職クラスと進学クラスと選抜クラスで使う教科書が違うの。授業で教科書の内容を消化して、早朝と放課後は参考書を使って課外授業を行って受験対策を練るのよ」
「教科書の中身を消化して、部活をするだけのウチらとは次元が違うわ。青海も、『大学行きたきゃ予備校行け』の世界だからな。就職対策は授業で熱心に取り組むけどな」
文武両道を奨励する修学館では、受験対策としての課外授業を一切行っていない。よって、受験対策は予備校や通信添削で行う事になる。だが、その方が時間を有効に活用出来るとして、生徒は肯定的に受け止めている。
そうこうしている内に正午を過ぎてしまった。
「さあー皆さん、勉強の手を休めてお昼と致しましょう。僕が君達のために腕によりをかけました!」
と言って克彦は12食分の冷やし中華をみくと手分けしてより分ける。克彦の号令で一斉に食事をとり始め、会話が和やかに弾んだ所で、克彦の妻との馴れ初めへと繋がった。
克彦は、みくが中学3年に上がる時に桜庭学園の教師を定年退職した。教師時代の教え子の一人が後の妻だった。短大を卒業し幼稚園の教師になっていた彼女と再会した時には男の厄年。42歳まで仕事優先男だった克彦は17歳下の妻を貰い、みくと名波を授かった。「嫁の妥協の選択だったんだよ」と克彦は笑うが、保守的でストイックな青春を送った桜庭学園の卒業生は恩師、同級生、先輩後輩の何れかと妥協の末に結婚するケースが多いという。
午後は4時までみっちり勉強し、博文達10人はそれぞれの帰路に就く。
夏休みが終わろうとしている時、みくの束の間の幸せは終わった。



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