Jumpin' Five 44

曽根菜由美  2006-12-15投稿
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 さて、美加と別れて、私は裏から出ていった。従業員用階段を降りながら、私は進一さんに、何を言おうか、一応の結論を見出していた。
 進一さんは車を出して待っていた。
「ごめんね。今から役員会だもんで…。」
「あ、構いません。」
「こないだのお返事だけ聞きたくて…。」
進一さんのこの一言で、現実に戻った。胃が痛み出した。外の寒さとは裏腹に、体のほてりのようなものを感じた。
「あ、寒いかな?中に入るか。」
2人とも車の中で話すことにした。暖房はかけてないが、風にあたらないだけ、良かった。
「すごく悩んだんですけど…ほんとに悩んだんですけど…悩んだ結果、条件つきではダメかな?と思いまして…。」
私は、言おうと思っていたことを伝えた。この一言だって言いづらい。最高に好きになった相手に、条件つけるなんて。
「条件?」
「必ず、秘密にしていただく、ということです。誰にも知られたくない、知られちゃいけない仲だと思うんです。親しい友人に話すくらいならいいですけど…。とくに、このバンドの人間には公開されたくないんです。私も、今度12月でやめる美加にしか話しません。
 私は、ずっと、楽器活動を続けたいし、もちろん、進一さんだって、このバンドに必要な人間だし…。周りの人に、迷惑やら気遣いやら、させたくないんです。」
私は、自分の思いを打ち明けて話した。進一さんは静かに聞いていた。ひととおり聞いてくれたあと、進一さんの方からゆっくり話し出した。
「私には親友がいません。約束は守ります。条件はそれだけですか?」
「え…。」
これだけでも、きつい条件だと思うのに、それだけ、と来た。
「断られると思ってましたので、どんなにたくさん条件があっても、平気です。」
やはり、保留にしたことが、進一さんの心の傷になっていたのだ。私は、この結論で良かったのだ。断っていたら、火に油を注ぐようなもの。
「駅まで、送ります。」
進一さんは、そのままエンジンをかけて発進させてしまった。これから、いろんな面で不安はあるが、私は7つ年上のトロンボーン奏者(+棒振り)をパートナーとしていくことに決めたのだ。もう後ろは振り向かない。
 美加だ。美加に話したのが良かったのだ。そうでなかったら…後悔してた。
 私は、電車の中で、もう一度喜びを噛みしめていた。



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