【月の社にて?】
すると巫女は氷色の瞳で火燐を見据え、「なに…?お前は天帝に聞いておらぬのか?今の私は魔力が弱り、かつての力の10分の1も出せなくなっているということを…。」
それを聞いた火燐は、「は…?」と言って巫女の顔を訝げに見つめた。
巫女は火燐のその反応を見て、顔をわずかに歪ませ、「そうか…聞いておらぬか…。あやつめ、何を考えておるのやら…。…──では火燐よ、この話は知っておるか…?」と言うと、「起きろ。」と氷に向かって命じた。
すると氷がメキメキと起き上がり、火燐の躯を巫女の肩くらいの高さまで持ち上げた。
そして巫女は徐に、形のよい唇を火燐の耳元に近付けると何かを囁いた。
…しばらくして、火燐の耳元から、巫女の寄せた唇が離れたとき、火燐の瞳は驚きで見開かれ、巫女は火燐のそんな様子を見て溜め息をつくと、「やはり知らなかったのだな…。」と呟いた。
そして憂いを含んだ目で火燐を見つめ、「もう帰れ。…私に傷を負わせるのは諦めることだ。たとえ以前ほど力はなくとも、お前一人を氷づけにしてしまうことくらいは容易い…。」と言うと、長い指をパチンと鳴らし、火燐の四肢の自由を奪っていた氷の呪縛を解いてやった。そして巫女が、火燐を乗せて起き上がっている氷に「砕けろ。」と命じると、火燐を乗せていた氷が突然砕け散り、火燐は尻から地面に落ちる格好となってしまった。
呪縛が解けた火燐は、尻の痛みを堪えて涙目になりながら「…ッくそ!覚えてろ!」という(使い古された)捨てゼリフを吐き、悔しそうに顔を歪ませると、風のように姿を…──消そうとしたのだが、あまりの動揺のためか、氷に足をとられてまたまたコケてしまい、結局一歩一歩踏みしめながら、ゆっくりトボトボと帰ることになったのだった…。