僕は三年もしないうちに彼女の顔を、体を、口癖を、仕草を忘れた。しかしコレは仕方がないことだ。人間とは優秀なもので、どんなに大切なことでも生きることに不必要であれば、忘れてしまう、削除してしまうのだ。生きるために。
今後僕は彼女を思い出すことはないだろう。だからもう泣かなくてもいい、第一生きなくてもいい。彼女が僕の脳内に記憶としてさえ存在しない世界など、僕が生きる価値さえないのだから。彼女がない世界など塵ほどの価値もない。
生きるために忘れたことが生きなくてもいい理由になるなんて、不適で素敵な矛盾だか……つまり僕にとって彼女が、世界にとって彼女の存在そのものが誤植にして、イレギュラーだったのだろう。
この世界の説理、論理、倫理なんかを、逆説し、破綻させ、蹂躙してしまった彼女がイレギュラーでなくてなんだというのか。『推理小説にカメハメハ』、みたいな…。
とかく、死のうと思う。色々考えたが、これだけは言える。僕は世界と彼女なら彼女を取る。コレは本音。この世の説理、論理、倫理が無に帰そうと知ったことか。僕は狂っている…少なくとも彼女には。世界は狂っている…少なくとも彼女には。