「ありがとうございました」
国境の街ジャスレフに着いた一行だったが、その間にゼノスは何度もその言葉を聞いた。
「気にしないでくれ」
この言葉もまた、幾度となく言った。
結果的にゼノスがヴァロールを退けた形となり、死んでいった傭兵達には申し訳ないが命を救った者として全員から賛辞の言葉を贈られることになった。
あの、ゴタゴタのあった女性―アスマナという名前らしい―からも。褒められることに慣れていないゼノスは対応に困りオウムのように同じ言葉を繰り返していた。セティはというと、そんな困ったゼノスを見て笑っていた。
ジャスレフはティノア神聖帝国とベルムとの国境沿いにある街で、ベルムから来た人、ベルムへと向かう人達で賑わっていた。
ここジャスレフを含むティノア領地の主要都市には陸送艦が配備されている。陸送艦とは、陸を走る船と言われ分厚い鋼鉄の装甲に多数の砲を持ち、都市間の移動に伴うモンスターの脅威から人々を守る為に開発され、数年前から主流は馬車から陸送艦へと代わっていった。
「戦いより疲れた」
ようやく開放されたゼノスは深く溜め息をつく。
「ご苦労様」
笑いながら言われ、言葉通りの意味を成さない。
「さてと…私は陸送艦の搭乗手続きに行かないといけないし、あなたは傷の手当てをしないといけないからここからは別行動にしましょ」
「そうだな、分かった」
頷くゼノス
「今からだと乗れるのは明日になると思うから、ここのホテルに今日は泊まるといいわ」
と、メモに地図を書いてゼノスに手渡す。
それを受け取りながら、
「じゃあ、また後でな」小さく手を上げる。
「ええ、街で迷わないでね」
セティも返すように手を上げる。
「ガキじゃないんだ。迷う訳ないだろ」
「あら」
ホテルを目の前に、ゼノスに誰かが声をかけてきた。
振り向いたゼノスの目に映ったのは一緒の馬車にいたアスマナだった。
背が小さく可愛らしい格好は童顔の彼女に似合っていた。そして、隣りには彼女とは明らかに不釣合いな細身で黒いスーツを着た男が立っていた。
「彼氏…か?」
不自然な二人に思わず、スーツの男を指差しながらアスマナに問う。
「違いますよ。ゼノスさん」
ふふふっと口に手を当て、二人の関係を否定するアスマナ。
「あぁ…」
生返事のゼノス。
「そうだわ、ジフ。ゼノスさんにお願いしましょう」