3月。卒業式。
今まで思いを寄せた人への書き綴った手紙を開き、内容の最終確認をする。
今は卒業式の卒業証書授与の最中だ。
もうすぐ、アタシの番。
「女子20番。佐藤水奈」
「…はい!」
堂々と、少し遅れてから返事をした。手紙をポケットの中にしまうと、立ち上がる。
まだ先の未来なんて分からなかった。
春の日差しが体育館の窓に反射する。
眩しくて目がくらんだ。
一歩一歩、教壇までの道のりが長く感じた。
「卒業、おめでとう」
校長が小声で言った。証書を受けとって振り返った瞬間、
目があった。
慌ててアタシは目を逸らす。相手も逸らした。それが、なんかすごく寂しかった。
「水奈〜、元気でいろよ〜」
涙で顔がグシャグシャの佳織が抱きついてきた。親友の佳織とも、中卒でお別れ。
行く高校が違うのだ。
「別に会えない訳じゃないのに…」
アタシは苦笑いを浮かべて言った。しかし、佳織の涙は止まらない。
それもそうか…。佳織、昨日彼氏にふられたんだもんね。
佳織の痛みがなんとなく分かる。アタシもこの手紙送ったら傷つくのかな?
水奈はポケットの中の手紙を握り締める。
やっぱり、春の太陽だよな…。
何だか、中学校生活の3年間が短かった気がする。3年前と同じ太陽。同じ感じ。
寂しい。寂しすぎるよ。
卒業式が終わると、アタシは彼を呼びだした。そして、手紙を差し出す。
「…ラブレター?」
「最初で最後の手紙」
彼の問いにアタシは答えた。彼は手紙を受け取ると、その場で開かず、
「ありがとよ」
そう言って行ってしまった。
ホントは行かないでほしかった。その場で返事がほしかった。
でも、あの頃は言える勇気なんて無かったんだ。
それから、3年が経った。