笑う犬の歌

 2006-12-18投稿
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 3月。卒業式。

 今まで思いを寄せた人への書き綴った手紙を開き、内容の最終確認をする。
 今は卒業式の卒業証書授与の最中だ。
 もうすぐ、アタシの番。

 「女子20番。佐藤水奈」

 「…はい!」

 堂々と、少し遅れてから返事をした。手紙をポケットの中にしまうと、立ち上がる。

 まだ先の未来なんて分からなかった。

 春の日差しが体育館の窓に反射する。
 眩しくて目がくらんだ。

 一歩一歩、教壇までの道のりが長く感じた。
 
 「卒業、おめでとう」

 校長が小声で言った。証書を受けとって振り返った瞬間、

 目があった。
 慌ててアタシは目を逸らす。相手も逸らした。それが、なんかすごく寂しかった。
 

 「水奈〜、元気でいろよ〜」
 涙で顔がグシャグシャの佳織が抱きついてきた。親友の佳織とも、中卒でお別れ。
 行く高校が違うのだ。
 「別に会えない訳じゃないのに…」
 アタシは苦笑いを浮かべて言った。しかし、佳織の涙は止まらない。
 それもそうか…。佳織、昨日彼氏にふられたんだもんね。
 佳織の痛みがなんとなく分かる。アタシもこの手紙送ったら傷つくのかな?
 水奈はポケットの中の手紙を握り締める。

 やっぱり、春の太陽だよな…。
 何だか、中学校生活の3年間が短かった気がする。3年前と同じ太陽。同じ感じ。

 寂しい。寂しすぎるよ。

 
 卒業式が終わると、アタシは彼を呼びだした。そして、手紙を差し出す。
 「…ラブレター?」
 「最初で最後の手紙」
 彼の問いにアタシは答えた。彼は手紙を受け取ると、その場で開かず、
 「ありがとよ」
 そう言って行ってしまった。

 ホントは行かないでほしかった。その場で返事がほしかった。
 でも、あの頃は言える勇気なんて無かったんだ。


 それから、3年が経った。

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