彼に別れを言ってしまった…田中さんが言った事は事実だもんね…心の中には、もう一人の私が彼を信じている。
彼は私と結婚したいって言った事はウソだったのかも…私は彼に取って都合のいい女だったのかな…そんな事を思いながら、一人で家に向かって歩いている。
私の名前は『相川 真美』、結婚の約束をしていた彼の名前は『斉田 涼』。もう、彼とは会う事はないと思う…こんなに好きになった人は彼が初めてだったのに…。
泣きそうになりながら、帰り道を歩いていると名前を呼ばれた気がした。振り向くと、そこには占いをしているお婆さんが座っていた。
「アンタ、ちょっと来なさい。この婆が占ってあげるよ」
「でも…」
「お金は要らんわい、ささこっちへおいで」
手招きをされて、私はお婆さんの前に置いていある椅子に腰掛けた。
「さて、両手を出してごらん。アンタの過去と未来を見てあげよう…」
私は疑う事もしないで、左右の掌をお婆さんに見せた。
「…ふむ、思った通りじゃ。アンタ、恋人が居るじゃろ?その恋人とは過去でも繋がりがあったのう。今、アンタの恋路を邪魔している奴も居るのう…」
お婆さんが話している事が理解出来ない。もう、恋人と呼べる人はいないのだから…。私が何も言わない事で、お婆さんは私の掌に何かを乗せてきた。
「何…これは?」
「アンタを守るお守りじゃ、そのお守りはアンタを必ず護ってくれるよ。絶対、手放しちゃいかんよ。お金は要らんからの」
お婆さんは私に微笑み掛けながら言った。私の掌には、小さな胡桃に似た丸いお守りが転がっている。綺麗な赤い組紐が鮮明で、本当に私を守ってくれる気がした。
お礼を言って、私は家へと向かって歩き始めた。