「ちょっと待て……。な、何だよ今のは!?」
生温い『現実』の中で生きてきた俺にとっては衝撃が強すぎた。頭の中で様々な情報が絡まり、俺を混乱させる。
「今のが『拳砲』といって武道技の基本……って、どうしたんですか一馬さん？顔色がおかしいですよ。気分でも悪いんですか？」
俺ははた目から見てもやばい表情をしているらしい。そんな俺を心配してかフロンが小走りに俺の方に寄ってくる。
「一つ……。教えてくれ……」
なんとかそれだけの言葉を絞りだす俺。
「な、何ですか？」
フロンは口元にだけは笑みを残して答える。
「今ので……。人は殺せるのか？」
「……!?」
明らかな驚きの表情。フロンが俺の前で初めて笑顔を絶やした瞬間であった。
「どうなんだ……？」
念を押すように尋ねる俺。それに後押しされるようにフロンは一言だけこう答えた。
「……殺せます」
予想はしていた。が、実際に言われるとでは精神的な重みが相当違ってくる。
「……くそっ」
フロンが現れた時に、つまらない非現実から逃れられると思って喜んでいた自分がどんなに無責任だったか……。
「なんでそんなものがある世界に俺を連れてきたんだ!?俺の意志を無視して勝手に!!」
俺は怒鳴った。人も殺せる技術を笑顔で見せたフロンを許せないと思ったから。
数瞬の間を開け、フロンは今までにない真剣な表情でこう言った。
「……あなたが生きるためです。工藤一馬さん」
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