「ッ……」
章人は再度こちらへ振り返ると足早に歩を進めた。
「じゃ、レイに会ってくるよ。」
そう言ってさらりと彩祢の横を過ぎて扉へ向かう。
「………!」
つかの間、茫然と突っ立っていた彩祢だが、はっとして勢い良く振り返った。
「待って!沖野ッッ――待ちなさい!!」
大声で章人を呼び止め、駆け寄る。
「――」
章人は立ち止まるだけ。その背に言葉を投げかける。
「――貴方…レイに話す気ね?」
「……まったく、キミは頭がキレすぎて、ホント困るねェ。それも…、今は僕の補佐役の筈なのに呼び捨てだし――」
彩祢の言葉に、章人は驚いたように振り返り、そして苦笑いする。
「…今行けば…絶対に殺されるわ。」
「うん。わかってる。」
彩祢は大分凄んで言ったつもりだったが、あっさりときた章人からの返答に、一瞬どきりとする。そして悟った。
「ッッ――……奥様に、言いたいことは?」
彩祢は複雑な心持ちで言った。