特に実質、失業の憂き目をみるであろう軍人の数は、一000万単位と深刻だ。
他に仕事が無いから兵営に入った連中ばかりだ。
もっとはっきり言えば、最外縁自体が、まともな産業基盤など、ないのだ。
どれだけ過酷であろうとも、一人帝国だけが、これだけの雇用を産みだし、一定以上の資質と力量を有し、貧窮と絶望から這上がろうと試みる男達に、立身・富貴の機会を提供する、ある種の装置として、機能して来たのだ。
歴戦の彼等をわずかな恩賜金を与えて、廃業させるのは、自殺行為だ。
仮に一端は同意を得られても、受け皿なんて、有るわけないからだ。
彼等の大半は、職に就けず、地元に適応出来る者はほんのわずかだろう。
結果、今まで犬馬の労を惜しまず尽してくれた彼等に、『頼むから弓を引いてくれ』とお願いする様な物になるのは、火を見るより明らかだ。
故郷からも主君からも見捨てられ、怨みと不満を募らせた旧部下達は、さぞかし精強無比の反乱軍へと変質するだろう。
要するに帝国は、軍事バブルなのだ。
ほぼ先天的に抱えているこの体質のままで行きたければ、侵略の矛先を更に進めて行くしかない。
エントレンス175から伸びる星間軌道群は、引き続き辺境に属すとは言え、ここよりは遥かに豊穣な星々の大海へと導いてくれる。
そして、果てしなく続く安定した宙域のずっと先には、星系合衆国を最外周に、光輝と繁栄に満ちた銀河中央域文明圏・先進諸国群が、古代の神々さながらに、全ての人類の羨望と憧憬の眼差しを浴びながら、鎮座している。
(閉鎖系から開放系へ、遭難者として去り侵略者として還るか…)
心の中で自嘲を込めてそう呟き、同時にエタンは戦慄を覚えた。 それには、どことなく未来の既成事実をすら予感させる、予知夢めいた響きが伴われていたからだ。
それも、今すぐにでも到来してしまいそうな、微細な響きが。
これまで自分は、自分でも信じれない位、この環境に適応して来た。
そして、良臣・勇将連に支えられているとは言え、統治者として道を踏み外さずにやって来れた、と言って良い。
少しずつだが経験と実績を蓄え、自分がタッチ出来る領域、委ねられる仕事も、大本営三長のチェックを経る物の、徐々に増えて来た。
帝国長年の悲願ー最外縁統一まではこの調子で行けるだろう。