歌舞伎町の女王

由美子  2006-12-23投稿
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暑い夏。蝉が声を枯らす事もなくずっと鳴いている。私は蝉の声を聞く度に九十九里浜が目に浮かんでくる。小さい頃、いつもはどこにも連れていってくれないママが一度だけ、遊びに連れてきてくれたっけ。嬉しかったな。水面がキラキラ光っててすごく綺麗だった。ママが起きてるのはいつも夜だったから。ママは歌舞伎町の女王だから。

ママはいつも不在だったから私の面倒は祖母が見てくれた。あれはいくつの時だったかな。私はまだ小さかったけど、皺しわの祖母の手を離れ独りで歓楽街を訪れた事があった。私は小さかったのに誰しもが手を差し伸べてきた。その時私は子供ながらに歓楽街に魅せられたんだ。私はママの生き写しの様だから、それは仕方がないね。

あれは私が15歳に成った時だった。ママは15歳に成った私を置いてどこかへ消えてしまった。きっと毎週金曜日に来ていた男と暮らしたんだろう。ママは私のママである前に女王だから。仕方がないのかな。

一度栄えし者でも必ずや衰えゆく。小さい頃、そんな言葉を何処かで聞いたことがあった。その時はまだ意味を知らなかったけれど。その意味を知る時を迎え、私は歓楽街に足を踏み入れた。私は消えていった女を憎んだ。それでも女王という肩書きを誇らしげに掲げていた。

もちろん私は女に成った。お化粧だって大分上手になった。ただ手を引かれていた拙かった私じゃない。もう小さかった頃とは違う。女に成った私が売るのは自分だけで、同情を欲した時に全てを失うだろう。確かにそう感じた。

新宿には色んな物が溢れているけど、一番にあるのは欲望の渦。欲望の渦が渦巻いてるんだ。そんな新宿。JR新宿駅の東口を出たら、其処は私の庭なの。大遊戯場、歌舞伎町。私の庭にどうぞいらして下さいな。

今夜からは此の町で娘の私が女王に君臨する。ママ、今ママが何処にいるのか知らないけど、女王はもうあなたじゃない。この私なの。

※この話は椎名林檎さんの『歌舞伎町の女王』を元に作ったものです。



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