佐倉 優衣(サクラ ユイ)は、小菅 巧(コスゲ タクミ)と付き合っていた。巧は顔立ちが良い方で、よく女の子と一緒にいた。明るくて人懐っこい性格から同性にも異性にも好かれる、いわゆる゛得″な性格だった。まあそのせいで私は巧のファンや巧のことが好きな子によくいじめられていた。あの日もそうだった。巧と帰る約束をしていて、クラスの用事で少し遅くなってしまった私は急いで下駄箱へ向かっていた。
すれちがう女の子からクスクスと小さな笑い声が聞こえるのはもう気にしない。あんまり急いでたので私は少し疲れて、あと階段を降りるだけのところで一度立ち止まった。呼吸を整えて、階段を降りようとした瞬間だった。
「巧〜!!」
と、黄色い声が上がり、私の視点は階段と逆さまに向き合っている。
女の子が巧に抱きつくのを見届けた次に感じたのは、激しい背中の痛み。
「やだぁ…階段から落ちてくるなんて、変な子。」
馬鹿にした言葉を浴びせられて、私はぐっと顔を上げる。そして私が目にしたものは、馬鹿にした女の子の笑い顔と、巧の心底嫌がる顔だった。
「ぁ…たく…」
「巧ィ〜早く行こうよ〜!あたしお腹空いちゃったぁ〜」
女の子は私の声を遮って巧の腕をしっかり掴んでいる。そして、巧は去った。