父は暫らく黙り込んでいたが、徐々に一言、二言と話し掛けてきた。その声は、耳を塞いでも頭の中に直接入り込んでくる。
『親父!マジでいい加減にしろよ!?親父がいなくて大変な事だってあるんだ!せめて邪魔するな! 』
僕の声は、家中に響いた。「しまった」と思った時には母の足音が、僕の部屋に近づいて来ていた。
ガチャッ『大丈夫!?何かあった!?』
深夜、息子の突然の怒鳴り声にかなり驚いた様子の母に僕は『何でもない。ちょっと寝呆けた。』としか言い様がない。
『…そう。』母は怪訝そうに言い、真っ暗な部屋を見回していた。その視線が一点に止まった気がする。母は軽くため息をついて諭すように言った。
『お父さん、瑞紀は大丈夫。車を運転しても事故なんてしないから。慎重な子よ?私に似てね。』
暗くて見えなくても母が呆れたように微笑んでいるのが解る。
『まさか親子喧嘩の仲裁をする日がくるなんてね。…ふふ‘おやじ’ね。』
母は余計な一言を残して部屋を出た。
姿は見えなくても父がバツが悪そうな顔をしているのが解る。僕は小さな声で『…ごめん。』と言って布団に潜り込んだ。
気付くと、暖かさを感じる春の朝だった。